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忘れられし花
第10章 贈り物
「頭を上げてください、光様。光様が頭を下げる必要はありません! こんなすごいもの、僕には絶対折れないです!」

 ここまで数の多い連鶴ならば、折るのは恐らく非常に難しいはずだ。そして一目見れば、どれだけ光が心を込めてこの鶴を折ったのか、とてもよくわかる。外に出ることができず目の不自由な光に出来る、精一杯の贈り物だった。

「そうです。とても見事な連鶴です。一生大事にいたします、兄上!」

 馨は感極まった様子で、光の両手を握った。
 今まで貰った、どんな高価な贈り物よりも、嬉しい贈り物だった。
 美しい連鶴は光の美しい心そのものだった。

 光は微かに微笑むと、ゆっくりと、まるで木が倒れるかのように、馨にもたれかかった。

「兄上!」

 馨が悲鳴を上げて光の体を抱き止めた。

「兄上! しっかりしてください! 兄上!」
「落ち着いてください、馨様。大丈夫ですから」

 奏は半分錯乱している馨から、光を引き剥がした。

「……え?」
「顔色は悪いですが、熱はありません。多分疲れからきた貧血だと思います」

 光をそっと布団に寝かせると、しばらくして意識を取り戻した。

「兄上!」
「静かにしてください。光様は具合が悪いんですから」

 馨は慌てて口を閉じた。

「馨様……。折角のクリスマスに、水を差してしまい、申し訳ありません……」

 か細く、囁くような声。

「いいえ。私の方こそ、このような遅い時間までご無理をさせました。今宵はもう戻りますので、お休みになってください」

 晩餐がここまで遅くなってしまったのは馨のせいだった。しかも疲れて眠っていた光を無理に起こしてまで晩餐を共にしたのだ。体の弱い光が倒れるのも道理だった。

「奏。馨様を本館まで送ってさしあげてください」

 迎えに来る予定の井上はまだ離れに到着していなかった。鷹取家当主である馨を供もつけずに一人で本館に帰すわけにもいかない。光の言うように奏が送っていくのが妥当だった。

「わかりました。途中、井上さんに会ったら馨様を渡してすぐに戻ります。行きましょう、馨様」

 奏は馨を促した。
 この時、わずかな時間であれ光を一人にしたことを、奏は非常に後悔することになるのだった。
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