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忘れられし花
第11章 誘拐
 鷹取家から行方知れずになった光は、奏が光の傍を離れたわずかの隙に何処かへ拐かされていた。廊下に転がされた意識のない光を、身なりのよい若い男が冷たい目で見下ろしていた。

「高坂。手足を縛って適当な部屋に転がしておけ」

 だが、光の傍に屈み込んだ高坂は同意しなかった。

「貴雅様。かなり熱が高いです。このまま手当てをせずに放置すれば命にも関わります」

 高坂家は代々貴雅の家に仕える医師の家系だった。この高坂も、秘書であると同時に貴雅の主治医でもある。

「だが万が一にも人質に逃げられては困る」
「それはないでしょう

 高坂は光の寝巻きの裾をめくった。明らかに歩くための肉が不足する細い足に、貴雅も納得したようだった。

「では客間のどこかに寝かせて手当てをしておけ。客間には誰も近づけるな」
「かしこまりました」

 翌日、高坂が貴雅を私室に呼びに来た。高坂に続いて客間に入ると、苦しげに浅い息をついて眠っている人質の青年の顔をとっくりと見つめた。年齢はおそらく二十歳くらいだろう。色白で繊細かつ端正な、非常に綺麗な顔をしていた。
 現当主の鷹取馨とよく似た明るい髪色の容姿からすると、間違いなく鷹取家主筋のはずだが、鷹取家系図には、該当するような者がいない。

「これが鷹取家の爺と、鷹取馨が隠していた者か」

 青年は足が不自由なようだった。だが、それだけでは足りない。その他に何か、家系図に載せられず、鷹取家が青年を世間の目から隠さねばならぬ、別の理由があるはずだ。

「容態はどうだ」
「あまり思わしくありません。元々虚弱な質なのでしょう」
「そうか」
「それとこちらをご覧ください」

 高坂は眠っている青年の瞳を、無造作な仕草で開いた。言われた通りに、上から覗き込む。
 青年の瞳は見たこともない美しい薄い水色だった。
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