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忘れられし花
第12章 私を泣かせてください
「先程歌っていた歌は、私に対する当てつけか?」

 扉の内側から聴こえてきた、外国語の歌曲。あれは貴雅への当てつけ以外の何物でもないだろう。

「……当てつけとは?」

 だが光は不思議そうな様子で、閉じられた目を貴雅に向けた。

「まさか、歌詞の意味を知らないのか?」
「はい、知りません」
「ならば教えてやろう。あれは囚われの姫が運命を嘆き、自由に憧れ歌う曲だ。まるでお前のようではないか」

 鷹取家に囚われ、鷲尾家に攫われ。

 そして鷹取家の忌み子としてその身に負った、過酷な運命。

「お前は、背負わされた過酷な運命に涙し、自由に憧れることはないのか?」
「ありません」

 光ははっきりと答えると、柔らかく微笑んだ。

「私などより過酷な運命を負われた方は、いくらでもおりましょう。私は鷹取家で何不自由ない暮らしをさせていただいております。それだけで十分です」

 光の言葉は正論だ。だが、理屈だけで割りきれるほど人の心は簡単ではない。

「では、お前は望まないと言うのか? 何も」
「……いいえ」

 光は変わらずに微笑みを浮かべている。その微笑みに一抹の寂しさが混じっているように見えるのは、貴雅の気のせいだろうか。

「ですが、それを私ごときが軽々しく口にしてはいけないのです」
「忌み子だからか」
「はい。私のような者は、存在してはならないのです」

 光はやはり寂しげに微笑んだ。
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