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忘れられし花
第13章 鷹取に咲くべき花
「貴雅様」

 高坂が注意を促すように、貴雅の名を呼んだ。

「用件を忘れていた」

 貴雅は、上着の内ポケットから、飾りのついた小刀を取り出した。

「髪を一房切り取らせてもらう。動かないでそのままじっとしていろ」

 そして音もなく鞘を払うと、光の淡い栗色の髪を一房、切り取った。

「お前は鷹取家との取引に使う大事な人質だ。この髪を見れば、お前が確かにここにいることが、馨にもわかるだろう」

 切り取った髪を白い洋封筒に入れる。珍しい淡い色の髪は、鷹取家直系の証だ。

「私は鷹取家の罪の象徴です。厄介払いができたと喜びこそすれ、馨様がそのような取引に応じるはずがありません」

 光は髪を切り取られたことを、気にする様子もない。

「私はそうは思わない。馨はお前にとても懐いていると聞いた。だから絶対に私との取引に応じるはずだ」

 鷹取馨には当主就任以来、何度か会ったが、貴雅の目には、わがままで傲慢なだけの子供に見えた。
 その馨が、人目を避けて離れに向かうときだけは、嬉しそうにしていたという。
 だから、馨にとって大事な人物が離れにいるのではないかと高坂に聞いて、その勧めのままにさらわせた。
 あまり褒められた手段ではないが、鷲尾家にとって今がまさに正念場なのだ。
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