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忘れられし花
第13章 鷹取に咲くべき花
「馨様はご両親を一度に亡くされてお寂しいのです。いずれ私のことを疎ましく思う日が来るでしょう」
「なぜそう自分を卑下する」
「卑下しているわけではありません。事実です」
おそらく深い絶望の暗闇の中を生きてきた光は、自分には価値がないと思い込んでいるのだろう。その口振りはあまりに淡々としていて、感情というものがまるで感じられなかった。
「では問うが、お前は鷹取馨がお前を見捨てるような冷酷な人間だと思うのか?」
「鷹取家当主としては、私のような忌み子など、見捨てるべきだと思います」
光は悲しげにうなだれた。馨がそのような人間ではないことを知っているのだ。
馨は光を見捨てない。
貴雅はうなだれる光を見つめた。
このまま空気に溶けて消えてしまうのではないかと思うような、繊細で儚げな容姿。
だがその内側には凛とした芯の強さを秘め、打てば響くような返答からは、光の頭の良さがはっきりと感じられる。
「人質の立場で、このようなお願いをするのは差し出がましいとは存じております。私にできることであれば何でもいたします。ですから、どうか馨様を苦しめないでさしあげてください……」
「お前はどうして……!」
貴雅は思わず声を荒げかけた。
過酷な運命にありながら、何故他人の苦しみまで背負おうとするのか貴雅には理解できなかった。
「貴雅様」
高坂は貴雅を遮った。
「これ以上のやり取りは、医師として認められません」
光は高坂の腕の中で浅く忙しい呼吸を繰り返している。高坂は光をそっとベッドに寝かせ、襟元を緩めた。それを見た貴雅は微かに眉をしかめ、素っ気なく踵を返した。
「用は済んだ。この手紙を鷹取の屋敷へ届けておけ」
貴雅からの書状は、すぐに鷹取家に届けられたのだった。
「なぜそう自分を卑下する」
「卑下しているわけではありません。事実です」
おそらく深い絶望の暗闇の中を生きてきた光は、自分には価値がないと思い込んでいるのだろう。その口振りはあまりに淡々としていて、感情というものがまるで感じられなかった。
「では問うが、お前は鷹取馨がお前を見捨てるような冷酷な人間だと思うのか?」
「鷹取家当主としては、私のような忌み子など、見捨てるべきだと思います」
光は悲しげにうなだれた。馨がそのような人間ではないことを知っているのだ。
馨は光を見捨てない。
貴雅はうなだれる光を見つめた。
このまま空気に溶けて消えてしまうのではないかと思うような、繊細で儚げな容姿。
だがその内側には凛とした芯の強さを秘め、打てば響くような返答からは、光の頭の良さがはっきりと感じられる。
「人質の立場で、このようなお願いをするのは差し出がましいとは存じております。私にできることであれば何でもいたします。ですから、どうか馨様を苦しめないでさしあげてください……」
「お前はどうして……!」
貴雅は思わず声を荒げかけた。
過酷な運命にありながら、何故他人の苦しみまで背負おうとするのか貴雅には理解できなかった。
「貴雅様」
高坂は貴雅を遮った。
「これ以上のやり取りは、医師として認められません」
光は高坂の腕の中で浅く忙しい呼吸を繰り返している。高坂は光をそっとベッドに寝かせ、襟元を緩めた。それを見た貴雅は微かに眉をしかめ、素っ気なく踵を返した。
「用は済んだ。この手紙を鷹取の屋敷へ届けておけ」
貴雅からの書状は、すぐに鷹取家に届けられたのだった。