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忘れられし花
第13章 鷹取に咲くべき花
 貴雅が鷹取家に取引の書状を出した翌日。

「兄上ー!!」

 勢いよく客間の扉が開き、一人の少年が顔を見せた。

「……面倒なのが来た」

 高坂と客間にいた貴雅が、ため息とともに顔をしかめた。
 少年はまっすぐに光のいるベッドまでやってくると、横になったままの光の両手をしっかり握った。

「あなたが兄が攫ってきたという鷹取のお方ですね。お初にお目もじつかまつります。僕は鷲尾貴晴と申します。そこにいる鷲尾貴雅の異母弟にあたります。この度は兄が大変なご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。よもやこれほどまでに美しいお方とは思ってもおりませんでした。お加減が悪いと高坂から伺いましたが、大事ありませんか? 僕が兄を説得して、必ずやあなたを鷹取のお家にお返しいたします。鷹取に比べるとあばら家ではございますが、それまで今しばらくこの屋敷でご辛抱くださいませ」

 少年は早口で一気にまくし立てた。声からすると馨と同じ年頃だろうか。子供らしからぬ言葉の奔流に光は驚いたが、柔らかく微笑んで名を名乗った。

「ご丁寧におそれいります。私は鷹取光と申します」
「光様とおっしゃるのですね。お綺麗な光様にお似合いの美しいお名前ですね。……あの、失礼ですが、もしかして光様はお目がご不自由なのですか?」

 話す間もずっと目を閉じたままの光を、貴晴は訝しんだ。

「はい。申し訳ありません」

 光に謝罪され、貴晴は驚いた。責めたつもりは一切なかったのだが、繊細そうな光は責められたと取ってしまったのだろうか。

「光様が謝る必要などまったくありません。謝るのであれば、不躾なことをお訊ねした僕の方こそ光様に謝らなければなりません」
「鷲尾家の方々は皆様お優しいのですね。忌み子の私など、優しくしていただく価値もないというのに……」
「忌み子……?」
「はい。私は前当主とその実の娘の間に生まれた、禁忌の子供なのです」

 どこまでも透明で綺麗な光の微笑み。空気に溶けて消えてしまいそうな風情の光に、貴晴は握ったままの光の手を握り直した。
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