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忘れられし花
第13章 鷹取に咲くべき花
「やれやれ。やっとお二人とも帰りました。光様もお疲れになったのではありませんか? 念のため診察をいたしましょう」

 元々貴雅との面会は、光の体調を考え、手短に済ませるつもりでいた。だが予想外の貴晴の乱入のせいで、かなりの長時間になってしまった。

「はい。よろしくお願いいたします」
「どうかそのままで。横になったままで構いません」

 起き上がろうとする光を、高坂は制した。まず脈を測り、その後視診や触診を行ってゆく。高坂の診察に緊張しているのが脈の早さや筋の張りから感じられる。全ての診察を終え、高坂は光に向き直った。

「かなりよくなりました。熱はまだ高いですが、徐々に落ち着くでしょう」

 寝巻きを直されながら、光は静かに高坂に声をかけた。

「……あの」
「なんでしょうか」

 高坂は何度結んでも縦結びになってしまう寝巻きの紐に、悪戦苦闘していた。

「私は、あとどのくらい生きられるのでしょうか」

 高坂はぴたりと手を止めた。蝶結びが縦のまま動きを止める。

「それは……」

 微笑みさえ浮かべ、まるで夢見るような美しい表情をした光から発せられた、しかし非常に重い問いかけに、高坂は思わず怯み、言い澱む。

「知りたいのです。私に残された時間を。私の死後、鷹取の家にご迷惑をかけぬよう、生きていられるうちに準備をしなければなりません」

 医師である高坂にはわかった。光が今まで生き長らえてこられたのは奇跡に近い。そしてその奇跡は有限であることも。

 高坂は迷った。
 長いこと迷い、そして真実を告げた。
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