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忘れられし花
第15章 友達
「手は考えているから心配するな。お前のためではない。全て兄上のためだ。兄上は未だにご自分のことを、存在してはならない人間だと強く思い込んでおられる。私が言うだけでは、兄上はご自分が誰かに必要とされていると、理解してくださらない。だから私は、どうしたら兄上がご自分の価値を理解してくださるのか、生きていていいのだと思うようになるのか、ずっと考えていた。谷山、お前にならそれができると私は思うのだ。谷山が正式に妾になれば、兄上は谷山のために長く生きなければいけないと思うだろう。お願いだ。兄上をお前への想いで繋ぎ止めてくれ。そして、兄上の生きる証になって欲しい」

 光が奏に向ける、主従の枠を越えた想いに、馨も気づいていた。他人の感情に疎い馨ですらわかるほどに、まっすぐで純粋な想いを奏に向けていた。

「僕は、光様に生涯を捧げることに迷いはありません。僕が光様の生きる証なら、光様は僕の生きる証です。ですが正式な男妾になるこということは、僕を鷹取家と光様に縛ることになると、嫌がると思うんです。光様を説得するのが、一番大変そうなんですけど」
「それはお前の役目だ。兄上はお優しいが、案外頑固だからな。自分で兄上を口説き落として見せろ」
「そう簡単に言わないでください。光様、いつでもにこにこしてるけど、本当はものすごく意志が強いからなあ」

 奏は天を仰いだ。

「その意志の強さが、今まで兄上を支えてきたんだ。あの優しい笑顔は、兄上の強さの証だ」

 嬉しくても、辛くても、苦しくても、光はいつでも変わらずに優しく笑っている。
 優しい笑顔に秘められた光の強さに、奏も馨も気づいていた。

「知ってます。仕方ありません。当たって砕けろ、です。玉砕したら骨は拾ってくださいね」
「断る」

 にべもない馨に、奏は大げさにため息をついてみせた。

 取引の日は明日に迫っていた。
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