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忘れられし花
第15章 友達
「おはようございます、光様。今朝もまるでカチコチに凍ってしまいそうなくらいの厳しい寒さですね。息も雪みたいに真っ白です。僕は屋敷の中を歩いて来ただけですが、すっかり体が冷えてしまいました。今日はいよいよ鷹取との取引の日ですが、お体の具合はいかがですか? あっ、兄上、おはようございます! 兄上も光様のところへいらしていたんですね!」

 朝餉の前に光の診察をしていた高坂は、こっそりため息をついた。先程の貴雅に続き、今度は貴晴だ。光が意識を取り戻して以来、この兄弟は大した用もないのに、二人して光の元へ押し掛けてくるのだ。おかげで光をゆっくり休ませることができず、容態はあまり思わしくない。

「おはようございます。お気遣いありがとうございます」

 それでも光は体調の悪さを押し隠し、変わらずに優しく微笑んでいる。

「何をしに来た、貴晴」
「僕ですか? もちろん朝のご挨拶に伺ったに決まってます。兄上だってこんなに朝早くから光様のお傍にいらっしゃるじゃないですか。朝餉だってまだ食べていないのに」
「私は用があって、ここへ来た。お前とは違う」
「またですか。ご用はもう終わったのではないですか? 兄上ばかり光様にお目にかかるのはずるいです!」
「静かにしてください、お二人とも。診察中です。騒ぐなら追い出します」

 高坂は鷲尾兄弟を一喝して黙らせた。虚弱な光は脈が弱く、医師の高坂でさえ、なかなか脈が取れないのだ。二人に目の前で騒がれては集中できない。

「すまない」

 診察をしているときの高坂は、怒らせるとあとが非常に怖い。二人は大人しく口を噤んだ。
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