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忘れられし花
第16章 取引
一月四日の午近く。鷲尾貴雅との取引に向かうため、馨は奏伴い裏門に向かった。裏門には当主専用の立派な馬車が止まっていた。二人が乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
馬車はがたがたと揺れながら、石畳の道を進んでゆく。
「鷲尾家って、ここから遠いんですか?」
奏は光の傍にいることが多く、鷹取の屋敷から外に出ることがほとんどない。そのためこの辺りの地理には疎かった。
「すぐだ。鷲尾はこの次の角を曲がって二軒先だ」
「鷹取と鷲尾って、意外と近いんですね」
だが、二軒先という割には、馬車が速度を緩める様子はない。
「……全然着かないじゃないですか」
鷹取や鷲尾の屋敷のあるこの一帯は、大きな屋敷ばかりが並んぶ、いわゆるお屋敷街だった。そのため「一軒」と簡単に言っても、一つの区画がまるまる一軒の敷地だったりするのだ。しかもそれぞれの屋敷の高い壁が道の両側に延々と続き、道行く者の距離感と方向感覚を狂わせる。
「着いたぞ」
そこは鷲尾本邸の正面玄関のようだった。
玄関には執事風の若い男が立っており、うやうやしく三人に向かって頭を下げた。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ。私は鷲尾家当主貴雅の秘書、高坂と申します」
高坂は壮麗な装飾の施された玄関扉を開け、中へと案内した。
馬車はがたがたと揺れながら、石畳の道を進んでゆく。
「鷲尾家って、ここから遠いんですか?」
奏は光の傍にいることが多く、鷹取の屋敷から外に出ることがほとんどない。そのためこの辺りの地理には疎かった。
「すぐだ。鷲尾はこの次の角を曲がって二軒先だ」
「鷹取と鷲尾って、意外と近いんですね」
だが、二軒先という割には、馬車が速度を緩める様子はない。
「……全然着かないじゃないですか」
鷹取や鷲尾の屋敷のあるこの一帯は、大きな屋敷ばかりが並んぶ、いわゆるお屋敷街だった。そのため「一軒」と簡単に言っても、一つの区画がまるまる一軒の敷地だったりするのだ。しかもそれぞれの屋敷の高い壁が道の両側に延々と続き、道行く者の距離感と方向感覚を狂わせる。
「着いたぞ」
そこは鷲尾本邸の正面玄関のようだった。
玄関には執事風の若い男が立っており、うやうやしく三人に向かって頭を下げた。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ。私は鷲尾家当主貴雅の秘書、高坂と申します」
高坂は壮麗な装飾の施された玄関扉を開け、中へと案内した。