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忘れられし花
第16章 取引
「光様!」
奏の声に、馨は振り返った。光はぐったりと苦しげにベッドに伏せていた。自分の身柄と引き換えに鉱山の開発権を引き渡したという事実の重みに、光は耐えることができなかった。
「兄上!」
馨は光の傍に膝をつき、手を握った。このようなことになるならば、たとえ本人が望んでも光を取引に同席させるべきではなかった。
「申し訳ありません、馨様。私の軽率な行動のせいで、鷹取家に多大なご迷惑が……」
「兄上は何も悪くありません。悪いのはすべて鷲尾家です」
苦し気な光の言葉をさえぎり、馨は光の細い手をさらに強く握る。
「鷲尾貴雅。兄上に謝罪しろ。お前は何の関係もない兄上を巻き込んだんだからな」
「関係ない? そんな訳はないだろう。お前の兄なのだから鷹取家の人間であることに違いあるまい。そもそも谷津鉱山は元は鷲尾のものだった。そこへ突然横槍を入れて勝手に開発を始めたのは、お前の祖父だ。鷹取家が勝手なことをしなければ、お前の兄にもこのようなことをせずに済んだ」
貴雅の語った内容に馨は驚いた。谷津鉱山が元は鷲尾家のものであったとは、初めて耳にする事柄だった。
「谷津鉱山を祖父が勝手に開発したことは、私は今まで知らなかった。お前の言うことが正しいのならば、この件に関して非があるのは鷹取の方だ。だが、よりにもよって、お体の弱い兄上をさらったことだけは、許すことはできない」
「いいのです、馨様」
手を握ったままの光にそっと腕を引かれ、馨は光を振り返った。
「いいのです、馨様」
光はもう一度、柔らかく繰り返した。
奏の声に、馨は振り返った。光はぐったりと苦しげにベッドに伏せていた。自分の身柄と引き換えに鉱山の開発権を引き渡したという事実の重みに、光は耐えることができなかった。
「兄上!」
馨は光の傍に膝をつき、手を握った。このようなことになるならば、たとえ本人が望んでも光を取引に同席させるべきではなかった。
「申し訳ありません、馨様。私の軽率な行動のせいで、鷹取家に多大なご迷惑が……」
「兄上は何も悪くありません。悪いのはすべて鷲尾家です」
苦し気な光の言葉をさえぎり、馨は光の細い手をさらに強く握る。
「鷲尾貴雅。兄上に謝罪しろ。お前は何の関係もない兄上を巻き込んだんだからな」
「関係ない? そんな訳はないだろう。お前の兄なのだから鷹取家の人間であることに違いあるまい。そもそも谷津鉱山は元は鷲尾のものだった。そこへ突然横槍を入れて勝手に開発を始めたのは、お前の祖父だ。鷹取家が勝手なことをしなければ、お前の兄にもこのようなことをせずに済んだ」
貴雅の語った内容に馨は驚いた。谷津鉱山が元は鷲尾家のものであったとは、初めて耳にする事柄だった。
「谷津鉱山を祖父が勝手に開発したことは、私は今まで知らなかった。お前の言うことが正しいのならば、この件に関して非があるのは鷹取の方だ。だが、よりにもよって、お体の弱い兄上をさらったことだけは、許すことはできない」
「いいのです、馨様」
手を握ったままの光にそっと腕を引かれ、馨は光を振り返った。
「いいのです、馨様」
光はもう一度、柔らかく繰り返した。