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忘れられし花
第16章 取引
「少々お待ちを」

 高坂が客間を出て行き、すぐに戻ってくると奏に布包みを手渡した。

「どうかこれをお持ちください」
「これは?」
「薬が入っております」

 布包みはとても軽かった。カサカサと紙が擦れる音がする。薬包が入っているのだろう。

「光様は、医者には全くかかっていないと伺いました。それでは光様があまりにお辛いでしょう。せめて、この薬だけでもお使いください」
「あなたは貴雅様の秘書でしたよね?」

 奏は不思議そうに首をかしげた。

「はい。私は秘書であると同時に、鷲尾家お抱えの医師でもあります」

 そういえば、最初にそのようなことを言っていた気がする。

「まさか毒ではないだろうな?」

 馨は疑念を口にした。鷲尾の医師ならば鷹取家の光に毒を盛っても不思議ではない。

「『医は仁術』という言葉があります。敵対する立場と言えど、苦しむ方の助けになりたいと願うのは、医師として当然のことです」
「……失礼した」
「いえ」

 馨の侮辱的な発言にも、高坂は怒らなかった。馨の謝罪を受け、軽く一礼する。

「貴雅殿」
「まだ何か用があるのか」
「できれば今後貴殿の秘書に、医師として兄上の診察をお願いしたい」

 馨は貴雅に頭を下げた。

「鷲尾家の秘書を、鷹取家の敷地に入れるというのか?」

 貴雅は皮肉げな笑みを浮かべた。高坂は医師であると同時に、敵対する家の当主秘書だ。普通ならば、絶対に屋敷に招き入れることはしない。

「……兄上のいる離れだけだ」
「いいだろう」

 矜持の高い馨が、わざわざ貴雅に頭を下げるのだ。貴雅も体の弱い光に主治医がいないことは、気にかかっていた。

「では週に一度、診察にお伺いいたします。それと馨様。もしよろしければ助手を伴いたいのですが」

 高坂は馨に願い出た。

「必要ならば」
「私にではなく、光様にとって必要です。少々騒がしい助手と偉そうな助手ですが」

 助手の正体を察した光が、顔を輝かせた。逆に馨はものすごく嫌そうな顔だ。

「また、皆様とお会いできるのですね。これでお別れではないのですね」
「仕方がない。許す」

 鷲尾家の人間は気にくわないが、これも光のためだ。
 馨はそう自分に言い聞かせたのだった。
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