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忘れられし花
第18章 花嵐
「本当は、もっと早くにこうするべきでした。奏はこのような日の当たらない場所にいてはいけません。私が前当主である克久様からあなたを庇ったとき、あなたは私を気遣ってここに残ってくださいました。ですが克久様は既にこの世におりません。今まで私のわがままであなたを手元に置いていましたが、ご両親の元に帰って、そしてどうか幸せになってください」
「嫌です!」

 奏は力一杯光を抱き締めた。光はされるがまま、人形のようにじっとして動かない。どうして光がいきなりこんなことを言い出したのか、奏にはわからなかった。

「何故ですか? 私はあなたに幸せになって欲しいのです」

 光は奏の幸せが両親との暮らしにあると、信じて疑わない。

「光様も知っているでしょう。僕は口減らしのために両親に男娼館に売られたんです。そんな家に帰っても、きっとまたどこかに売られるだけです。なのに、何故光様は、僕をこの屋敷から追い出そうとするんですか?」

 春雨が屋根を叩く音だけが、静かな部屋の中に聞こえている。

 光はただ、静かに微笑んだ。

「……私の命が長くはないからです」

 全てを悟ったような、まるで神様のような微笑みに、奏には見えた。
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