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異形疾病
第4章 ドクター「A」
この疾病は、現代の医学ではまだ治療法が見つかっていない不治の病だ。


致死性の疾病ではないが、患者はまず外形的な変異を容易には受け入れられない。
また発症以降は生涯に渡って性的興奮に苛まれ、人間の尊厳と密接に関係する排泄の制御も不可能になることから、悲観して自死を選択してしまう患者も少なくない。

先進国に患者が多いため、各国が競うように莫大な費用を投じて研究しているが、未だ発症のメカニズムさえ解明されていない。
つまり、研究者もいつ自分自身が発症しないとも限らないわけだ。

臨床の現場で日々急患の対応に追われていた私も同様だった。

この疾病が広まり始めてからというもの、医療現場の過酷な勤務実態は改善の兆しが見えず、プライベートなどあってないようなものだった。
異様な症状に戸惑いながら、新たな事実が判明すればすぐに知識をアップデートして診療に役立ててきた。
手をこまねいている暇はなかった。

一人でも多くの患者を、救うこと。寄り添うこと。
そのためにできること。

医局の権力闘争とは一線を画し、ひたすら現場主義でばか真面目に働いてきたつもりだった。


ある徹夜勤務明けの仮眠室で、股間に強烈な違和感を覚えて目が覚めた。
内側から圧迫される、膨張するような痛みと熱さ。
睡魔より異様な違和感が勝り、なんとも嫌な予感に毛布をはいで慌ててズボンのファスナーを下ろすと、既に変異は始まっていた。

どくどくと目に見えて脈打ち、まさに少しずつ肥大していこうとする自分の性器を、痛みに堪えながらただただ眺めた。
発症すれば手の施しようがないことは、よく承知していた。
肛門も熱い。
下着越しにそっと触ってみると、肛門はだいぶ突出し始めていて、腸液で汚れている。
動揺しながらデスクの箱ティッシュに手を伸ばした途端、突然の猛烈な便意に襲われた。
咄嗟にベッド脇にあったゴミ箱に跨がると、間一髪で脱糞が始まった。
止められなかった。

痛みと、糞便が肛門を通過するこの快感…。
あぁぁ…。
体が震え、息が荒くなった。

肥大化が完了して痛みが一段落するまで、当分は入院が必要だ。
脱糞は終わる気配がなく、このゴミ箱ではおそらく収まらない。

助けを呼ぼうにも誰を呼べばいいか、同僚や部下の顔がいくつも浮かんで躊躇したが、師長に連絡して発症したことを伝え、患者用の糞便袋を持って来てもらった。
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