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キス・イン・ザ・ダーク
第1章 キス・イン・ザ・ダーク
「……何かご用?」
こんなところまで来て。
あたしは今の自分に出来る最大限の悪態をついた。
けれど男は、そんなあたしすらも楽しいようで、からかうように笑っている。
ギザったらしい笑みは、あたしをさらに苛つかせるのに充分だ。
充分なのに……。
「こんな素敵な女性がそんな風に泣いていて、放っておける男がいるわけないじゃないか」
そんな甘ったるい声で口説かれてみなさい。
あぁ、情けない。
あたしはバーカウンターに突っ伏しつつ、目は男を見上げる。
少し色素の薄い男の髪が、切れ長の瞳を美しく飾り立てているのが見て取れた。
あぁ、情けない。
こんなにいとも簡単に堕ちてしまうなんて。
「それじゃあ癒してよ。あたしのこと」
あたしは堕ちちゃったついでに訊ねてみた。
挑発的に、それでいて幾ばくかの寂しい気持ちを乗せて。
その瞬間、男の口角が僅かに上がったのが分かった。
あたしはそれを、見て見ぬふりをするしかできなくて……。
「マスター、マンハッタンを。バーボンの香りは、手っ取り早く酔うにはうってつけだからね」
あたしは男がその酒を呑み終わるまで、熱い額を冷たいバーカウンターに押し当て続けた。
こんなところまで来て。
あたしは今の自分に出来る最大限の悪態をついた。
けれど男は、そんなあたしすらも楽しいようで、からかうように笑っている。
ギザったらしい笑みは、あたしをさらに苛つかせるのに充分だ。
充分なのに……。
「こんな素敵な女性がそんな風に泣いていて、放っておける男がいるわけないじゃないか」
そんな甘ったるい声で口説かれてみなさい。
あぁ、情けない。
あたしはバーカウンターに突っ伏しつつ、目は男を見上げる。
少し色素の薄い男の髪が、切れ長の瞳を美しく飾り立てているのが見て取れた。
あぁ、情けない。
こんなにいとも簡単に堕ちてしまうなんて。
「それじゃあ癒してよ。あたしのこと」
あたしは堕ちちゃったついでに訊ねてみた。
挑発的に、それでいて幾ばくかの寂しい気持ちを乗せて。
その瞬間、男の口角が僅かに上がったのが分かった。
あたしはそれを、見て見ぬふりをするしかできなくて……。
「マスター、マンハッタンを。バーボンの香りは、手っ取り早く酔うにはうってつけだからね」
あたしは男がその酒を呑み終わるまで、熱い額を冷たいバーカウンターに押し当て続けた。