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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第4章 夏の夜
(極秘裏に買って、奈々に電動歯ブラシを押し当てたとき、どんなふうに股を広げ、どんなふうに淫らになっていくのか、それを知りたい)

 買い物は終わった。会計を済ませ、奈々の車に野上が食材を積み終えたときである。
「私の後について来て。アパートには二台駐車できるから」
 と奈々は野上を見上げた。野上は慌てた顔で話しを返した。
「ちょっと待って、大事な物を買い忘れた。すぐに買ってくるから」
「それはなに?」
「それは秘密。五分で戻るから」
 野上はスーパーに引き返した。電動歯ブラシと、それを誤魔化すためにワインも買った。電動歯ブラシは、出口でズボンのポケットに忍ばせている。

      (三)
 野上は彼女の後ろについて、信号を幾つか過ぎた。大きな交差点を右折する。国道とバイパスの中間辺りで左折し、少し走った所で奈々の車が停まった。
 左側の白い建物が、彼女のアパートらしい。
 小雨の中に薄桃色の傘が開いた。車から降りて近づいてくる奈々の胸が揺れ、ワンピースのウエストが、なまめかしく見える。野上は窓ガラスを下ろした。
「野上さん、着いたよ。私、バックで入るから、私の前に停めて?」
「綺麗なアパートだね。それに二階からは景色が良さそう。下が駐車場なんだ」
「うん。二台までなら大丈夫。大家さんが、ここは花火がよく見えるって言ってた」
 彼女は、得意げな顔を浮かべていた。

 野上が軽トラをバックさせているときである。先に車を停めた奈々が、彼を誘導し始めた。後方に立ち、真剣な声である。駐車スペースは広く、軽トラックは余裕のようだが、「……はいストップ」と、声がした。
(ほう、昨夜の喘ぎ声とは声の質が違うじゃないか)
 彼女の真剣な声が、電動歯ブラシを使ったとき、どんなふうに声質が変わるのか、野上には楽しみである。
 コンクリートの壁と車の間で、彼女は小声だった。
「私について来て。階段は向こうだから」
 野上は食材を両手に持ち、車の間を奈々の後に続いた。
 裏手には、柵のある真新しいコンクリートの階段が二階へと続いている。反対側にも同じ階段があることから、この階段は彼女専用のようだ。
 階段の中ほどまで上がると、視界が開けてきた。向こうの瓦屋根とビルの間に、ついさっき右折した信号機が見えた。
 二階からはスーパーの看板が見え、バイパスは雨に煙り、遥か遠くに岬が霞んでいた。
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