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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
 定義の口ぶりは、早く別れろと言いたげである。
「まあ、幸恵さんも手元に入る金が増えれば、それは仕方ない。そう思って諦めろ。だけどな英二、次に再婚するときには、相手のご両親は礼儀正しい夫婦を選べ」
 幸恵と付き合っていた頃から、結婚には反対されなかった。しかし、親父が彼女の両親を嫌っているのは薄々知っていた。
 以前の運送会社の給料なら、おそらくこのような問題は起こらなかった、と野上は思った。だが、親父の話しを聞いただけでは分からない。今後がどうなるのか、幸恵と話しをしてからでないと、先々は自分でも分からなかった。

 定義の家からアパートまでは車で五分ほどである。
 アパートにいる由香に、野上はこの話しを聞かせたくなかった。
「親父、話しは俺一人でいい。由香には修羅場のような話しを聞かせたくないんだよ。俺と一緒にアパートまで行って、由香を連れてきて見ていてくれないか」
 定義は直ぐにこたえた。
「安心しろ、見ていてやる。英二が長距離を続けるなら、何年でもいいぞ」
(そう言う意味じゃないんだけど)
 野上は返す言葉が直ぐに浮かばなかった。それでも、決めるのは幸恵と話しをしてからだった。

 夕方だった。親父に由香を連れて行かせた後、野上は幸恵を問い詰めた。
 記帳された通帳を手渡されたとき、残高は小銭だけだった。この五年数ヵ月、振り込まれる度に端数を残して金を引き出していることも分かった。
 野上は幸恵の両親に電話を入れた。高速を走れば、二時間も要しないでこのアパートに着く。
 幸恵は畳に座り、うつむいて淡々と喋った。
「あんた、ごめんなさい。頼まれると断れなかったのよ」
 彼女の口調からは、いつかは知られる事だと、そんなふうに思えた。
 野上は不思議と腹は立たなかった。全てを任せたことが、この結果を招いたと思えたのだ。それに恋い焦がれて幸恵と一緒になった訳ではなかった。
 このまま生活を続けるべきなのか、──彼女は自分から言うように断れない女だと、野上には思えていた。
「幸恵、分かったから何も言うな。金は返さなくていい。由香は俺が育てる」
「分かりました。私も由香に嫌われていたのは分かってた。全て私の責任だから、本当にごめんなさい」
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