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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
 グラビア雑誌から抜け出たような由香に、野上は複雑だった。
 以前せめてパジャマでもと言った事があった。だがそのときには、『あっお父さん、いやらしい』と睨まれ、それ以上言うと誤解を与えそうで、言い訳さえできなかった。
 野上はなるべくテレビの方に顔を向けていた。しかし横目ながらにでも、由香が胸もとを直していることは分かっていた。
「まあ入浴剤はいいよ。じゃあこれを空けて入るとするか」
 テレビの音声にまじり、
「そう? じゃあ、お父さんに付き合ってあげる。私は冷たい麦茶でも」
 と彼女の声だった。
 蛍光灯の光がフローリングに反射していた。野上は足もとに冷気が流れてくるのが分かった。麦茶を取り出している音が聞こえる。娘がどれほど無防備な格好をしているのか、それも想像できる。パンティを穿いているのか否か、フローリングに映っているのかもしれない──。今までこんな夜は何度もあった。
 が、彼が由香の後ろ姿を見ることはなかった。
(もし体のどこかにキスマークでもあれば)
 三ヶ月ほど前から急激に色気の増した娘の体に不安を覚え、何も知らないほうが安心な野上なのである。

 由香が麦茶をテーブルに置く音が野上に聞こえた。そして椅子に座って携帯を触っているようだ。
「あっ、健太からメールが届いてる。ねえお父さん、明日の夜、健太がカツオを持って来てくれるって。それにお爺ちゃんところにも」
 テーブルを挟めば色気のある生脚は遮られ、照れくさくもなく、野上はバスタオル姿の由香を直視できた。
「なに、また健太か。奴はそうやって魚で気を引こうとしているんだから、由香、奴には注意しろ」
 いつもは強気な由香が、奴の話しになると妙に目線と口調が変わる。野上は、それが心配だった。
「もう、注意しろってそれは変。だって幼なじみなんだからいいじゃない。それに私たち、父親同士は高校からの親友なんでしょ? だけどさ、親子で漁師をしてるっていいよね」
「いや、漁師はいいんだけど、私たちは変だぞ? 知らない人が聞くと誤解される」
 由香は目を細めてにやりとした。
「お父さん、私たちを誤解してる。私たち、まだそんな関係じゃないから。健太から手を握られたこともないんだよね」
「当たり前じゃないか、それでいいんだよ。奴が手を握ろうとしてきたら、絶対に拒否しろ。握手もだめだ」 
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