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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第4章 夏の夜
 由香は目を丸くして、「うん、分かった」と言った。「あと、週末の花火大会の夜は同僚のところで飲み会のあと、そこで泊まるって言っていたよね」
 とぼけたように確認してくる由香に、これはまずい、と野上は思った。
「そうなんだよ。タクシーで帰るよりも、泊まれ泊まれって言うんだよ」
 と野上は、できるだけ真面目な顔をしてみせた。
 ちょっと首を傾げた由香はニヤリと笑みを浮かべ、得意げに話しはじめた。
「ふーん、あのねお父さん、それも私にはバレてる。いつもなら、飲み会のときには私に迎えに来いって言うじゃない。バレバレだね。ここは男らしく私に話してみたら? こそこそしないで堂々と、奈々さんと付き合うのが最善だと思う。いつかは亜紀ちゃんたちにもバレるんだからさ」
 ──タクシーで分かったのか、と野上は気づいた。
 珈琲をごくりと飲んだ野上はカップをテーブルに置き、深々とソファにもたれている。
「男らしく堂々となのか。由香、男の考え方には、たとえ娘からそんなふうに男の尊厳を傷つけられても、こそこそしてでも男は女性の秘密は守らなきゃいけないんだよ」
 どうだと言わんばかりの野上はソファに腕をのせ、余裕の仕草で足を組んだ。そして由香を見て、ニヤリとした。
 だが口もとに手を添え、由香はクッと笑い声を漏らした。
「こそこそして女の秘密を守るって、なに?」
「──え?」
「あのね、え? じゃないんだよ。ほら、山下のおじさんが飲みに来たときとか、おじさんちに飲み行ったとき、二人はよく道義とか男の仁義、常日頃から正々堂々と、とか話して盛り上がっているじゃない。じゃあ聞くけど、女性に対する男の仁義はどうなの」
 自分の珈琲の残りを、野上はちらっと覗いた。
「ちょっと最近、由香は理屈っぽくない?」
 挙動不審な父を見た由香は、面白さを覚えた。
 由香は、父が何を話したとしても論破する自信がある。今、自分の計画どおりに話しを進めた。
「あのね、理屈っぽいじゃないんだよ。高校生の頃から亜紀ちゃんと二人でお父さんたちにビールを注ぎ、話しを聞いていると、なるほどなーって思うこともあるのよ。たまに亜紀ちゃんとそんな話しをすることもある。で、奈々さんとはどう? 筋を通して女性と付き合うのが男らしいと私は思う。どう? 正直に私に言ってみたら?」
 神妙な顔で話しを聞いていた野上は、落ち着いた声で問いかけた。
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