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第5章 花火大会

　　　第五章　花火大会

　　　　　　　（一）
　週末、楓生コンの朝は、早くから始まっていた。
　本日、早出出勤のドライバーは数名いる。彼らは午前七時には積み込みを終え、現場へ向けて出発するのだ。その後も、それぞれの積み込み時間に合わせ、ドライバーたちは準備を始める。
　それも正午を回り、三時を過ぎた頃にはいつもどおりに戻っていた。中には出番は終わったのか、洗車場へミキサー車を着け、黄色いヘルメットをかぶり、長靴を履いて洗車ブラシで洗い始めたドライバーもいた。
　河合もこの時間になると、骨材置き場でタイヤショベルに乗り、骨材の整理を始めた。

　おそらくこれが最終便、と思うミキサー車を野上は出した。その後、少し待っていれば誰かが戻ってくる。
　そのとき、「11号車、戻ってきました」と無線から、新人の山田の声がした。
　彼の声に、野上には好都合だった。何事も経験なのだ。
「11号車、今から洗うから、生コンを受けるときのように、ホッパーの下に着けて下さい。何回か洗うんだけど、ベルが二回鳴るまで車を動かさずに待っていること。その後はいつもと同じで、車を洗って待機だよ。オッケー？」
　無線からは新人らしい声で、
「11号車、了解しました」
　とそんな山田の応答だった。

　事務所の中で、野上と香織は二人っきりである。事務をしながら、彼女は電話も取っている。野上はプラントのドラムを洗っているのだが、打ち込んだ通り、モニターで確認できる自動制御である。
　野上が画面を見ているとき、香織は来週の予定をホワイトボードに書き始めた。
　香織の後ろ姿を見ている野上は、一夜明けて一段と女っぽくなったな、とそんな気がした。
　昨日は玉川に、それとなく電動歯ブラシを匂わせたのだ。それに、香織にはお口の回し方も伝授できたと思っている。それらの影響が、彼女の体に表れているように、野上には思えた。
　そのとき、無線からの声が事務所に響いた。
「5号車、堤防の現場完了。コンマ2くらい余りました」
「5号車、余りはコンクリート砕石へお願いします」
「5号車了解」
　と、無線からの応答だった。その後も終わった現場のドライバーから、次々に連絡が入ってくる。

　骨材を積んだダンプカーの最終便が、楓生コンに到着し始めた。タイヤショベルの音が事務所にまで響いてくる。