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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第5章 花火大会
 陽が西に傾いても、夏の一日はまだ長い。
 野上と奈々は海が望める道端に立ち、車に乗り込む亜紀たちを見ていた。
 後部座席のドアを閉めようとする絵里花が、すっと振り返り、笑みを浮かべた。野上は誰にも内緒だと言うように、彼女に向かって人差し指を唇に当てた。
 絵里花は誰の影響なのか、ときどき面白い理屈を口にするのだが、浴衣の似合う無邪気な女の子だと、野上には思えているのだった。

 健太の車は海沿いを走っている。車内は賑やかだ。
 後部座席の亜紀が、
「由香ちゃん、私たちの勘は外れちゃったね。でもさ、話しやすくて自分を飾らない人のように私は思った。ちょっと若いけど、いいんじゃない?」
「だからあの時、俺は言ったんだよ。もう一人……」
 と健太が話し始めたときである。
「ちょっと健太は黙って。あとでゆっくり聞いてあげる」
 と、由香に遮られている。
 後ろを振り向いた由香は、亜紀に話し始めた。
「そう。見事に外れちゃった。けど、私も亜紀ちゃんと同じで、若くてもいいと思ってる。それに奈々さん、可愛いしね」
「そうそう、私たちと同じくらい可愛いよね」
「うん、それは言える」
 と由香は言って、三人でくすくす笑っている。
 運転を続ける健太は、彼女たちの話しを聞いてはいるのだが、ときおり起きる笑いに、何が面白いのかちょっと疑問だった。
 亜紀は言った。「ところで、お爺ちゃんに何て説明する? あんなに若い人がおじさんの彼女だって言っちゃうと、びっくりしちゃうよ?」
「そうなんだよねー」
 由香は少し考えている様子だった。そして絵里花を見た。
「絵里花ちゃんなら、何て説明する?」
 深々とシートに座っている絵里花は、得意げな目で由香と亜紀を見た。
「決まっているじゃない。私だったら見たまま有りのままの奈々ちゃんを、お爺ちゃんに教えてあげる。それが筋の通ることだと思ってる」
 由香は感心した様子である。そして納得げに頷き、
「絵里花ちゃんすごい。その通りだよ。私たち、考え方も同じだね」
 布袋を握りしめた絵里花は目を細め、満面に得意げな笑みを浮かべている。
 亜紀は絵里花の隣りから、「うん、私たちは似てる似てる」と言った。
 車は軽快に海沿いを走っている。
 黙って運転を続けている健太は、そのうち絵里花ちゃんも、由香たちのように魅力的な大人になっていくんだろうな、と思うのであった。
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