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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第5章 花火大会
服を着替え、戸締まりを済ませた野上は奈々を隣りに乗せて、隣り町の彼女のアパートへと向かっている。
軽トラックを走らせながら、野上は奈々の手を握ってみたいと思った。
だが大型トラックとすれ違ったとき、覗かれる気がする。左隣りに大型車がいれば、奈々の胸から太ももまでじっくりと覗かれる気もした。以前自分が乗っていて、それは承知していることである。
野上は言い訳のように、自分から話し始めた。
「あのさ、手を握りたいんだけど、今はできないんだよ」
(え? なにそれ)
きょとんとした目を、奈々は彼に向けた。
「私から握ってあげようか?」
「いや、違うんだよ。もしかしたら手を握ってほしいとか、思っているんじゃないのかな、と思ったんだよ。だけど、大型トラックとすれ違ったとき、トラックからは車内まで見えるんだよ。俺は以前、乗っていたからさ」
真面目な口調で説明する彼に、奈々は面白かった。
「あっ、野上さんの言っている意味、私、分かった。トラックって、そんなに見える?」
「それが見えるんだな。奈々ちゃんも左隣りにトラックが停まったときには要注意だよ」
その話しに、奈々は興味が湧いた。
「左隣りのトラックは危険?」
「もちろんだよ。乗用車のフロントガラスだと、女性と目を合わせることなく、ミニスカートなら太ももまで見えるんだな」
野上は、彼女から恥ずかしげな目で見つめ返された。
「野上さん、いやらしです」
奈々は彼に浴衣姿を見せるまで、平常心でいたかった。
奈々は、話題を変えた。
「ところで野上さん、私がリビングで待っているとき、絵里花ちゃんと何を話していたんです? ちょっと怪しかったですよ」
「ああ、あれ? じつは……」
話しを聞き終えた奈々は、くすくす笑った。
「絵里花ちゃんは目を三角にして無法者? 買収しちゃったんだ。上さまって、面白いです。でも本当は、絵里花ちゃんのこと可愛いんでしょ。私、そんな気がします」
「まあ、それは想像に任すよ。だけど、絵里花にそれを言っちゃだめだ。やつはつけ上がるからな」
口もとに手をそえ、奈々はくすくす笑った。
「じゃあ、次に会っても内緒ですね」
やがて軽トラックは、アパートの駐車場に停まった。
エンジンを止めて降りるとき、彼は紙袋を手にしていた。奈々はそれが気になる様子だ。
「上さま? その紙袋はなに?」