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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第5章 花火大会
 野上はとぼけたように答えた。
「これ? 確か、箱に…なんとかピンチ君って書いていた気がする」
 奈々は、彼が言っていたバイブに違いないと察した。ベッドで脚を大きく開くよう指図され、それを挿入されて悶える自分が映像のように浮かんだ。
 紙袋を見た奈々は、
「ピンチ君ってなんだろう、あとで教えて?」
「オーケーだよ、じゃあ後で教えてあげる」
 二人は階段を上がり始めた。奈々はしがみつくように野上に体を寄せた。
(俺に胸をすり寄せて、奈々はバイブだと分かっているくせに。あとでじっくりと──)

 アパートの鍵を差し込むとき、奈々は野上を見上げて話した。
「あのね、窓を閉め切って出たから部屋の中はムンムンしてると思うのよ。野上さんは寝室の窓を開けて? 私はキッチンと浴室」
「オッケーだよ。ここは風の通りがいいようだから、空気は直ぐに入れ替わるだろうね」
「うん、私、いつもそうしてる」
 金属音がして、アパートのドアが開いた。
 彼女の後ろに立つ野上は、夏の日射しに温められた真新しいフローリングの匂いと、奈々の匂いを感じている。

 テーブルの隣りのカーテンと窓ガラスを開け始めた彼女を見て、野上は寝室のドアを開けた。
「奈々ちゃん、このドアも開けっばなし?」
「もちろん」と、奈々は窓ガラスを開けながら振り向いた。
 寝室に入った野上はベッドに紙袋を置いた。彼は、南側のカーテンとサッシを開け始めた。
 外は既に日は落ち、町は暮れようとしている。
 花火大会でも、バイパスの流れはいつもと変わりないようだ。アパートの隣りを海辺へと続く道路は、少し混雑し始めている。町から海辺へ向かう道路は、どこも同じかもしれない。
 ベッドサイドの青いカーテンと、窓ガラスを彼が開けたときである。
 寝室に入ってきた奈々はリモコンを手にした。そして、「もう閉めていいよ」とエアコンを入れた。
「え? 今開けたばかりだぞ」
「うん、風通しいいから直ぐに入れ替わるのよ。早く閉めなきゃ虫も心配」
 野上は同感だった。南側のカーテンだけを残して、直ぐに閉めた。そのあと奈々に目を向けた。
 彼女の目は強気な雰囲気を醸していた。淫らに甘えたいくせに、淫乱モードのスイッチの入れどころに迷っているようでもある。
 紙袋を手にした野上は、奈々にこれを見せれば淫乱なスイッチが入るように思えた。
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