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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第5章 花火大会
「うん、二日連続で遅くなって、週末の今日だもの。由香ちゃんたちにバレてると思う。でもいいんじゃない? 花火大会の後の晩ごはん、私も賛成。その前に私、シャワー浴びてくる。これも着替えなきゃ」
「じゃあ俺も一緒に。俺はさっと浴びるだけだから」
 彼は浴室で極太を握らせ、奈々を興奮させておきたかったのである。
 奈々は恥ずかしげに、黙って頷くのだった。

      (三)
 シャワーから上った野上は柿色の灯りを点けて、紙袋から浴衣を取り出した。
(花火大会の夜は、やっぱりこれだよな。ムードが違う)
 浴衣を着た野上はサッシの前に立ち、外の景色を眺め始めた。
 人混みに紛れて、由香と健太が手を繋いで歩く光景が浮かんだ。すると都合よく、目を三角にして二人の間に割り込む絵里花が想像できた。あと五百円、念のために握らせておけば──。
 彼が外を眺めているとき、「野上さん」と奈々の声がした。
 振り向いた野上は、奈々の姿に声が上がりそうになるほど驚いた。過去の記憶が、彼の頭によみがえり始めた。
 薔薇柄の浴衣には見覚えがある。立ち姿も、髪型も、顔立ちも、高校時代に恋い焦がれた遥に、奈々はどことなく似ている──。
 半信半疑ながら、野上は問いかけた。
「あの、もしかしたら奈々は、遥の──」
 奈々は黙って頷いた。沈黙が続いた。花火が上がり始めた。響く音が次々に聞こえてくる。
 野上に微笑みかけた奈々が、
「私に気づいてくれた?」
 そう言って、彼女は寝室の灯りを消した。
 打ちあがる花火の明かりが、絶えず寝室に差し込んだ。音も響き続けた。

 二人はソファに腰を下ろし、向き合って話している。 
「じゃあ、引っ越しのとき、俺の写真を見て?」
「うん、ベッドで教えてあげようと思っていたんだけど、気づかれちゃったね」
「いや、どこかで会ったような気がしていたんだよ。俺、彼女に惚れきっていたからさ」
 すると、奈々はちょっと目を三角にしている。
「あのね、お母さんが言ってた。電車を待つホームで偶然見かけたとき、遠くから大声で、よね子って呼んでいたんだって? あれは恥ずかしかったって」
「いや、だって米沢遥だから、いつの間にかそうなっていたんだよ」
 奈々はまじまじと野上を見て、口もとに手を添えてくすくす笑った。
「その、海の柄の背中に大漁って書いてある浴衣は? 胸にも同じ漢字だね」
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