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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
《そうなのよ、お爺ちゃんは私たちの味方なんだけど。で、明日も亜紀ちゃんと二台で来て。バイトが終わった後、晩ごはん作って待ってるから。時間はいつもと同じだからね、分かった?》
《じゃあ妹に頼んでみる。だけど晩ごはん? おじさん、ちょっと恐くて。どうしても?》
《亜紀ちゃんが一緒だと大丈夫、可愛いから。それにさ、お父さんを少しづつ慣らしていく計画じゃない。この前のように、軽トラは狭いからだめだからね。分かった?》
《オッケーだよ》
《じゃあ、もう直ぐお父さんがお風呂から上がるから、明日ね》
《分かった。明日》

 この夜、健太は亜紀の部屋にいた。
 彼女は大学一年生で、母親に似て可愛い顔立ちだ。おとなしい健太に比べ、亜紀はちょっと強気で、笑ったときにはえくぼができ、茶目っ気がある。
 健太は由香がメールで言っていたことを、亜紀に伝えた。
「また私に一緒に行ってくれって? 野上のおじさんに由香ちゃんと付き合っているからって、男らしくはっきり言えばいいじゃない。……はい」
 亜紀はニヤリと兄を見て、手のひらを差し出した。
「なんだよその手は、この前も渡したじゃないか」
「あのね、お小遣いとバイトだけじゃガソリン代も大変なのよ。それにさ、私のおかげで由香ちゃんとデートできるんだから、安いものじゃない。はいバイト代」
「妹のくせに、もう……」

 自分の部屋にもどった健太は、椅子に腰をおろした。そして遠くの灯台の灯りを、ぼんやりと眺めている。
(妹が言うように、野上のおじさんに伝えておきたい気持ちはあるけれど)
 健太は以前、由香と付き合っている事を父に知られた。
 そのとき父から、野上に筋を通しておけと言われた。そのあと、『俺と野上は高校三年のとき、町の不良たちと幾度か乱闘して退学処分、それぞれ違う少年院に入院させられた』と聞いた。
(親父からそれを聞いてはいたんだよな──)
 すると今年の四月下旬の出来事が、健太にはつい数時間前のようによみがえるのだった。

 月明かりの夜だった。
 健太は助手席に由香を乗せて、岬へと向かった。
 高台の駐車場に車を停めたとき、辺りには誰もいなかった。
 健太は車内から遠くを眺め、どきどきしていた。今夜こそ、由香の手を握る考えでいたからだ。 
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