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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
 彼女は野上の反応を確かめるように見上げていた。
「誰かと思ったら、坂井奈々ちゃんだったね。胸に研修生って名前があったから覚えてる。それにほら、携帯は直っているよ」
 にやりとした野上は自分の耳もとでそれを振ってみせた。
 彼の態度は奈々に面白く映ったに違いない。
(それって、スマホに鈴なんて付けていないのに)
「はい、担当だった坂井です。一週間もお預かりしていましたから。でもそれを聞いて安心しました。それに、今日帰り際に渡したアンケートに答えて頂けると、野上さんにポイントも付くんですよ。ぜひそれもお願いします」
「あの葉書? じゃあ書いて送ってみようかな」
「ええ、ぜひ……」
 このとき野上は楽しげに話す彼女を見て、馴れなれしい女のように思えていた。

 一週間前のことである。
 その日の仕事帰りだった。野上は不具合を感じるスマートフォンを手にして携帯電話ショップに立ち寄った。
 そのときの野上は、礼儀正しい彼女の対応に初々しい印象を受けている。大学卒業後に初めて就いた職場なのだろうか、仕事に対する真摯な姿勢も感じていた。
 だが今日の昼間、奈々の対応は違っていた。
 携帯電話ショップから届いたメールで、野上は昼休みに出かけた。持たされていたスマートフォンを彼女に返したときには指が触れ、意味ありげに睨まれたように思えたのである。
 そして今、買い物かごを手にする彼女の目線と態度は、わずか七時間前とは随分と違っている。
「……それに、お渡ししたポイントカード、使えるお店では利用するといいですよ。ポイントが貯まりますから」
 そう言って彼女は口もとに笑みを浮かべた。そして唇にすき間をつくり、上目づかいで野上を見ている。
 奈々のアヒル口を目にしたとき、自分を可愛く魅せているのかな、と野上は思った。しかし、目の合わせかたには思い当たるふしがある。野上が自宅近くで見かける度に、近寄って来ては上目づかいでにやりとする小学一年生、由香と仲のいい近所の生意気な小娘が浮かんでしまうものだった。
 それにしても、上目づかいの彼女の目線は妖しげだった。違うことを意識させているのか──と勘違いさせる色気がある。ベッドで仁王立ちの男から、変な事をおねだりされたときに女が魅せる眼差しにも似ていた。
「じゃあ、それも使ってみるよ。だけどさ、奈々ちゃんは買い物の途中じゃないのかい」
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