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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
 野上は竿をしまいながら、話しを続けた。
「まあ、今はそんな気はないんだよ。それに、北村さんにも相手を選ぶ権利が……」
 由香が話しを聞いているとき、テーブルに置いている父のスマホが鳴った。
(あっお父さんにメールだ。仕事のことかな?)
 竿をしまっている父を見て、直ぐにスマホを手にする由香である。
「お父さん、きっと仕事のメールだよ。明日の事じゃない? 私が見てあげる」
 父に届いた用件を伝えるのも、楽しい由香なのだ。
 手帳のようなカバーをめくり、タイトルを見たとき、《野上さん、こんばんは。坂井です》とあった。
(坂井さん? 誰だろう。お父さんの会社にそんな人いたかな?)
「お父さん、きっと現場の着時間か何か、明日の仕事のことじゃない?」
「明日は早出なんだけど、それは伝えてるんだけどな。何て連絡?」
 由香の口調で、野上は仕事の話しだと思い込んだらしい。そのまま釣り道具をしまっている。
 由香がメールを開くと、仕事とは明らかに違った。

《こんばんは、奈々です。野上さんって、ほんとに素敵ですね。私、スーパーを出るとき、野上さんは待っていてくれるかなって期待していたんですよ。でも車もなかったから、先に帰ってしまったんだなって。だけど、会ったのは突然だったから仕方ないですね。お願いがあるんです。今度、私と会ってもらえないですか? お返事、待っています。 奈々》

 由香は釣り道具をしまっている父を見て、お父さんって意外にもてるんだ、と思った。
 由香は薄目でニヤリとした。テーブルの上のリールを、父の近くにコトリと置いた。
 彼女の口調は落ち着いている。
「お父さん? 仕事の話しとはちょっと違ってた」
 どこかのコマーシャルのメールかな、と野上は思った。
「違っていたのか、どこから?」
 由香はじっと父を見て、
「あのね、女の人。スーパーの出来事らしい。奈々さんって、どんな人?」
(えっ、奈々からメール? どんな人?)
 直ぐに色気のある彼女の太ももと、極上の体が野上に浮かんだ。次には可愛い顔と、いやらしげに思えた唇が浮かんだ。さらには布団の上で、股をじっくりと開いてゆく妄想まで浮かんだ。
「いや、どんな人って、普通の人だよ。普通だよ」
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