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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第2章 初体験
 玉川が、骨材を降ろした後である。
「野上さん、車から降りると暑いですねえ」と玉川は言って、計量済みの納品書を手にして事務所に現れた。
 野上は香織と玉川を疑ってから、二人を日々観察している。
 野上は仕事をこなしながらニヤリと顔で挨拶をして、二人の雰囲気を何気に見ていた。
 玉川が香織に納品書を手渡したときである。彼女の唇が、いやらしげに微笑んだ。
 香織はちょっと俯き、プラントの印を押している。そのあと玉川を見て、いつも通りに受領書を手渡した。
 察するに野上は、二人は確かに怪しいと思えている。
「香織ちゃん、今日は暑いから玉ちゃんに冷たい麦茶でもサービスしてあげなよ」
「そうですね。玉ちゃん、麦茶入れます?」
 楓生コンは早出残業がない限り、八時半から四時半までだ。
「だめですよ、四時半までにもう一回走らないと」
 野上は時計を見て、
「そう? 今からだと最終便は四時を少し過ぎた頃だな。まあ慌てることはないよ、後で香織ちゃんにゆっくり入れてもらいなよ」
 玉川は照れくさげに、ニヤリとした。
「では最終便、頑張ってきます」
「ゆっくり走っても、時間は間に合うから慌てなくていいからさ」
「了解!」
 野上は、玉川の首筋からシャツのすき間に、キスマークが幾つも付いているのを見逃してはいない。
(ついに、肉体関係に発展したんだな)
 あのキスマーク、香織はどんな態勢で玉川に付けたのだろう。おそらく香織は上になって、「玉ちゃん玉ちゃん……」と、猫でも呼ぶように──と野上は思った。
 それについさっき、ホワイトボードに書き込む香織が、突然振り向いたあの眼差し。玉川に背後から抱かれているときには、あんなふうに色気のある目で振り向いているのかもしれんな、と野上に浮かんでくるのであった。

     (二)
 日は、まだ西の空だった。
 野上が自宅に戻ったとき、由香の車は車庫に停まっていた。既に本日のバイトは終えているようだ。
 健太がカツオを持ってきてくれるのはいいのだが、奴が来ると由香が妙に色気のある態度をみせるのには、釈然としない野上である。
 玄関を開けたとき、料理のいい匂いがしていた。
(なにも、奴のために料理を作ることはないだろう)
「由香、ただいま」
 台所から、「お帰り。あと一時間くらいで健太と亜紀ちゃんが来るって電話があった」と由香の声がした。
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