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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第2章 初体験
(カツオなら、亜紀一人で来ればいいじゃないか)
 野上がダイニングに入って目が合うと、すぐに由香は話しかけた。
「ランチボックスはそこに置いて、早くお風呂に入ったら? 着替えも置いてる。私、先に入ったからね」
 普段なら、風呂に入るのは由香と話してから決めていた。
 由香の体からは、入浴剤の甘い匂いがムンムンしていた。シャンプーの匂いもして、可愛く見えるツインテールだ。
(どうせなら、奴を威嚇するような、あの水牛の角のような髪型の方が)
 と思っても、野上は娘のツインテールは見慣れている。
 由香はジーンズに、胸の膨らみが目立たない白い半袖シャツを着ていた。自分の本音では、健太の前ではミニスカートに、ウエストと胸の膨らみが強調されるTシャツを着ていたかった。父に配慮したのだ。
(まあ、俺の思い過ごしだろうな)
 露出の少ない由香を見て、野上はそんなふうに思った。
 野上は自分の髪の毛をつかむと、角のようにして、
「由香、昨夜の…こんな髪型が似合っていたから、今から直してはどうだ?」
 変な髪型を見て、由香はくすくす笑った。
「もう、冗談はいいから、早くお風呂に入ってきて? もう直ぐ来るんだから」
 何事もなかったように料理の味見を始めた娘の後ろ姿を、何ともいえない目で野上は見ていた。
(子どもの頃とは、ずいぶん違ったな)
 野上には、『お父さん、座って』と言われ、髪にリボンを巻こうとしてくる、あの頃の無邪気な由香が浮かぶのであった。

 野上が風呂に浸かっているときである。車庫の前に車が停まるのが分かった。耳を澄ますと、亜紀と奴の声が聞こえる。ほどなくしてチャイムが鳴った。
 玄関が賑やかになった。笑い声と話し声が浴室まで届いてくる。
「由香ちゃん、スーパーの袋ある? 親父が近所にも配るのはどうかなって」と、健太の声がした。
(あれが奴の手口だ)
「今日はどうだった?」と由香の声だ。
「もう、大漁だよ。だから親父が近所にもだって」
「良かったね、健太。直ぐに袋を持ってくる。お父さんにも言ってくるから、待ってて」
(山下も奴とグルだ)
 由香がドアを開けるのが分かった。
「お父さん、開けるけどいい?」
「なんだ?」
 湯船に浸かって野上が見ていると、サッシが少しだけスライドして、由香の顔とツインテールの片方が覗いた。
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