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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第2章 初体験
 健太を見上げて、由香は話しかけた。
「今からたたきを作ろうよ。お父さんも、そう思っているんじゃないかな?」
 振り返った三人の目が、野上を見ている。
 たたきは好物で、野上は自分でも作れる自信がある。しかし由香をめぐる宿敵のような奴が作るとなれば、ヒーローの立場を再び奴に奪われかねない。だが亜紀が見ていれば、長考の余地はなかった。
 野上は、作り笑いを浮かべ、
「それでいいんじゃないか? じゃあ煙るから庭で焼くか。俺が準備をしてやる」
 野上にいいところ見せたい健太だった。
「じゃあ亜紀、由香ちゃんと準備を頼む。直ぐにおじさんとあぶってくるから」
「うん、分かった」

 健太と野上は、バーベキュー用の半分に切ったドラム缶を庭に出して、ワラに火をつけた。
 野上は見ていた。
 自分が燃やすよりも健太のほうが火力が強い。山下に教えられているのだろう、手際もいい。
(それにしても、火力は強すぎないか?)
 焦げてしまわないかと、野上は心配になった。
「健太、火が強すぎるんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ。これだと外は半生で中まで火は通らないんです。これで出来ましたよ」
 そう言って自分と向き合い、ワラの炎に映えた奴の笑みは、娘を考えると悔しいのだが、精悍な若者に見えた。
「片付けは俺がするから、健太は早く持っていけ」
「じゃあ早速。氷水にも漬けないといけないですから」
(なに、氷水に漬ける?)
 野上は半信半疑ながら、火が消えると水をかけて片付けはじめた。

 野上が上がっていくと、テーブルには豪勢な手料理が並んでいた。カツオは氷水に浸かったままである。
 健太は頃合いを見はからっていたようだ。
「もういいかな? 由香ちゃん、今から切って盛り付けるよ」
「オッケー」
 楽しげな由香である。
 大皿には、亜紀に教えられたのだろう。大根の千切りの代わりに、細く切った玉ねぎのスライスがしかれ、ニンニクのスライスも添えられている。
 野上は既に出来上がっている料理を前にして、テーブルの椅子に腰を下ろし、三人の後ろ姿を見ていた。
 板前のように健太は手際がいい。豪快に厚く切って盛り付け終えると、刻んだ青ネギを上に散らせて出来上がった。
 亜紀は得意顔で、「おじさん、はい、できたよ」と言ってテーブルに置き、えくぼのある笑みを向けた。
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