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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第2章 初体験

 いつも遊びに来る健太たちの席は決まっている。テーブルを囲むと、由香はそこまでしてくれないのだが、亜紀は違っていた。
 彼女は隣りから、覗き込むように野上を見て、
「おじさん、塩? 私はポン酢にワサビがいいと思う。小皿に入れて上げようか?」
「それがうまそうだな、俺も好みなんだよ」
「私と一緒だね。お兄ちゃんと由香ちゃんは塩が好みだと言っていたんだけどね」
 亜紀の声は野上には聞こえている。しかし自分の目の前で、奴の小皿を手にしてカツオを取り分けている由香に、不安な気持ちが野上の頭に広がった。
「ところでお父さん、健太のたたきはどう?」
「うまい。今まで俺は、じっくりとあぶっていたから、できはちょっと悪かったんだな。これはうまいよ」
 敵視していても、そんなことは正直に答える野上だ。続けて言った。
「だけどさ、カツオを貰っても近所の人は料理が出来るのかなあ、俺はそれが心配なんだよな」
 由香はクスッと微笑んで話した。
「それなら大丈夫、健太が全部、三枚に下ろしてあげたから」
 と余裕の笑みを浮かべた。
(どおりで近所の評判はいいわけだ。そりゃあ缶ビールもくれるわな)
「由香ちゃん、これ最高。すごく美味しい」
「あっ、嬉しい。亜紀ちゃん、今度は健太と泊まりに来て?」
「もちろん!」
(いや、健太はいいんだよ健太は)

 夕食が終わりに近づいたとき、冷蔵庫からビールを取り出してきた亜紀が、
「はいおじさん、注いであげる」
「そうかい? ほんと、これがうまいんだよな」
 気分よく野上が飲んでいるときだ。少しだけ残ったたたきをそのままにして、由香たちは直ぐに片づけ始めた。
「お父さん、後でお爺ちゃんところに三人で行ってくる。そのあと私、亜紀ちゃんところに寄ってくるから」
「親父のところ?」
「そうだよ、お爺ちゃんカツオを楽しみにしているんだよね。それにスイカを箱に入れて用意してるって、メールで言っていた。帰りは亜紀ちゃんと健太が、またここまで送ってくれるって」
 亜紀と一緒だと、野上は安心だった。
「亜紀ちゃん、悪いなあ」
「全然、大丈夫」
 と、亜紀はニヤリとしていた。
 ときには泊まりにきて、専用の洗面用具は置いてある亜紀たちだ。野上は洗面所に向かう三人を見て、外に出るのも女のたしなみだろうな、と思うのであった。
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