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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第2章 初体験
 一人になると、賑やかだったダイニングは寂しいほど静かだ。野上は缶ビールとグラス、小皿をトレイに乗せて、大皿を片手にリビングへ向かった。
 テレビをつけても、落ち着けない野上だ。由香が奴の皿に取り分ける態度を思い起こせば、健太に気があるように思える。
 それでもよくよく自分自身を考えてみれば、健太を嫌っている訳ではない。奴はちょっと内気だが、誠実な男。敵視していても、好感はもてる。由香が奴に惚れているなら、娘のために許してもいいのだが──。
(だけど、妊娠だけは困る)
 野上はそんなことを思った。携帯を手にしてクリックすると、菜々のエロチックな唇が、画面に大きく映った。

 その頃、定義の家に向かう車内は賑やかだ。
「お爺ちゃん、外で待っててくれるって。亜紀ちゃんの車にスイカを積んだら、ショップに直行だからね」
 国道から外れた車は、田舎道を走っている。後部座席から前のシートを押さえ、顔を覗かせて前方を見ている亜紀が、
「あっ、お爺ちゃん出てきてる……」
 車を停めた健太に、定義は直ぐに話しかけた。
「健太、あのカツオはうまかった。残りは冷凍にしてる。スイカとか野菜は箱に入れてるから、持って帰れ。お父さんたちに宜しくな」
「ありがとうお爺ちゃん。伝えます」
 庭に停めた亜紀の車の隣りには、シートを広げた上に、二つ箱が置いてあった。既に定義のところに健太と亜紀は立ち寄っていたのだ。
「お爺ちゃん、こんなにいいの?」
「もちろんだよ亜紀ちゃん、レタスとかそんなのは無いけどね。これは亜紀ちゃんの車に積む?」
「うん、ありがとう。私の車」
 由香は健太と箱を積みながら、
「お爺ちゃん、菜々さんがどんな人か、確かめたらメールする」
「由香、ばれないように確かめるんだぞ。亜紀ちゃんも健太も気をつけて運転するんだぞ」
「うん分かった」

 亜紀は運転しながら、前を走る兄の車のスモーク貼りのリヤガラスを見ていた。
(たぶん由香ちゃんは、お兄ちゃんにくっついているんだろうな。私のおかげだね。奈々さんって、どんな人だろう──)
 国道に出ると、亜紀の予想どおりだった。由香は健太に体を寄せて話していた。
「なんかさ、偵察するようでドキドキするよね」
 健太は人の秘密に足を踏み入れるようで、気が重かった。
「もしかすると、奈々さんは休みかもしれないよ」 
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