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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
 だがそれは偶然に見かけ、仕事に一生懸命な新人だから、彼女はそんな態度を取ったに違いない。何処かで会ったことがあると思えたのは、見たことのあるタレントのような顔立ちだから──と考えれば納得できた。
 それでも若い女性が、色気のある仕ぐさをみせたのには気になる野上だ。
(美穂をナンパしようと話しているとき、笑みを見せる彼女は浴衣のお尻をちょっと後ろに引いて、下半身辺りを微妙に動かしていたんだよな)
 もしかしたらあのときの美穂のように、奈々も妖しい関係を求めていたのだろうか──。
 野上にはあのときの美穂の微笑みと態度が鮮明に浮かぶのだった。
 すると過去の出来事と現在の妄想は、ベッドで仰向けに寝た奈々と美穂が、同時に太ももを抱えて股を開いてゆく光景が野上の頭を駆けめぐった。二人の下半身からは、ちょっと開きぎみの性器までもが想像できた。
 だが現在、野上は常識のある人間だと自分では確信している。目の前で若い女が太ももを擦り合わせたくらいで、我を見失うことはないのだ。
 自動ドアが開いた。レジ袋を手にする野上が外に出たとき、暑い外気が頬と体を伝い流れた。駐車場を照らすライトが停められた車の屋根で反射している。向こうの海沿いには、バイパスを照らすオレンジ色の灯りが岬のほうに続いていた。
 野上は車に向かいながら、奈々の車はどれだろうと駐車場を見渡した。あれだけの極上の体を間近で魅せつけられた後である。少しは彼女のことが気になったのだ。
 軽トラックのドアを開けながら、野上は入り口の自動ドアに視線を送った。買い物の途中なのか、野上が彼女を見つけることはなかった。

 奈々はレジに並んでいた。
 今夜は思いがけず野上と出会い、奈々は自分から思わせぶりな態度をみせた。唇を見られていると分かったときには意識して唇にすき間をつくった。ときには、素知らぬ素振りで買い物かごを後ろに持った。下半身を舐められるように見られたときには、ベッドで強引に脚を広げられてしまう場面が浮かび、体中が火照る気がした。
 奈々が野上に想いを募らせるのには訳がある。それは女子高生時代にまでさかのぼる。だがそれを知らせるのはベッドで彼に抱かれたときに──と考えるのだった。
 奈々は確信していた。あれだけ彼に餌をまいたのだ。
(もしかしたら私、スーパーを出た所で野上さんに声をかけられる?)
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