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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第2章 初体験
 これ以上疑うことを口にすれば、健全な親子関係が崩れてしまうように、野上には思えた。
「もちろんだよ。いやー、お爺ちゃんの作ったスイカはうまいから、みんな喜んでいただろ?」
 それを聞いて、由香は後ろめたい気持ちになった。山下のおじさんたちに直接会ったわけではなかったからだ。それでも、嬉しそうな亜紀の笑みが浮かんでくる。
「うん、すごく喜んでた。ところでお父さん、スマホを置いているけど、もしかしたら奈々さんとメールしてた?」
 父のスマホを見て、由香はさり気なく問いかけた。ショップで見かけた店長らしき女性も浮かび、さらに続けた。
「ねえ、私がシャワーから上がったらメール見せて? 女心をアドバイスしてあげる」
「あのな由香、お父さんはそんなことは考えていないんだよ。それに明日も早出だから、もう寝る。由香、シャワーから上がったら、明かりを消して二階に上がって行くように」
 由香には、父の考えが分かった気がした。俺とは言わずにお父さんと言うときには、真逆のことを言っているのだと、それくらいのことは前々から知っている。
「そうなの? じゃあ明かりは消しておく」
 由香が浴室に向かったのを見て、野上は携帯を手にして自分の部屋に入った。引き戸はすき間なく閉めた。

 この季節、奈々からメールが届く以前の野上なら、就寝前は網戸にして扇風機が心地よかった。布団を敷いて、大の字になって翌日の仕事を描く。考えがまとまれば戸締まりをして眠りに就く。
 だが、昨夜からは違う。エアコンを自分好みに合わせ、カーテンも閉めている。自分が中年だと分かってはいても、奈々とメールをすることに興味が湧いているからだ。
(そのうち奈々からメールが届くだろう)
 野上はそんなことを思いながら布団にうつ伏せになった。そしてこれまでの彼女のメールと、自分が最後に送ったメールを読み返し始めた。
《こんばんは。十一時頃からメールはオッケーなのかい? その時間だったら俺はまだ起きてるよ。奈々ちゃんは週休二日なんだね。俺は日曜と第三の土曜日が休みだよ。だけど、俺の休みに合わせたい? どうしてなのかな?》
 野上は自分のメールを読み返して、最後に余計なことを書いてしまったと思った。
 これまで届いたメールと写メを見れば、彼女が抱かれたいと思っているのは一目瞭然だが、そんなことを答えられる訳がないではないか。
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