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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
夕食後の台所では髪を変な形にまとめた由香が、白いシャツに青い薄手のロングスカートで食器を洗っていた。野上はテーブルに珈琲を置き、椅子に腰かけて腕を組んでテレビを観ていた。しかしときおり、横目で娘を見ているようである。
由香はグラビアアイドルのようにスタイルはよく、背は高いほうである。
娘の後ろ姿をみる野上の考えは、スーパーで奈々をみた時とは違っていた。娘が股を広げる妄想などは一度もなく、想像も無色透明のように清らかだった。
野上がそんなふうにテレビを観るでもなく、女らしく成長した娘の後ろ姿を見るのは日常のことである。水牛の角のような髪型をみて、性格はちょっとお姉さま風かな、とは思うのだが、よくぞここまで気だてよく育てたものだ。と野上はいつも自分を誇らしげに思っている。
いつの間にか、野上は釣りの放送に夢中になっていた。
(マグロ釣りか、いいな……)
青い海原が広がる中で、ゲストとレギュラータレントたちは船上で歓声をあげ、水しぶきを上げて抵抗するマグロを取り込もうと格闘している。
最大の見せ場のその時だった。
「……話し聞いてる? ねえ、お父さん」
由香の声に、野上は我に返った。
見れば台所をバックにして、エプロンを手にして両手を握って腰に当てている。真剣に話しを聞いていないときに、彼女がよくみせる癖だ。睨みをきかせて薄目にしているところは、その髪型といい、可愛い顔がより可愛くみえた。
話しの分からない野上は、横目でテレビを観ながらとぼけたように聞いた。
「どうした由香、マグロの話しか」
「違うよ、お風呂だよお風呂、早く入って。それ観てるんだったら、私が先に入るからね」
「まだ入ってなかったのか。いいよ、俺はこれを観て、後でゆっくり入るから」
「もう、入浴剤は好きじゃないって言ってたから譲ってあげようと思ったのに。後で文句言わないでね」
腕を組んだ由香は唇を尖らせ、顔を傾げて強気な態度をみせた。
彼女が笑みをつくってフン、とした態度をみせるのは、それも幼い頃からの癖だ。体は女らしく成長して大人だが、まだまだ子どもだな、と野上はそんなことも思うのだった。
野上は窓辺の花をみて、思い出したようにきいた。
「ところで由香、また花を貰ってきたのか? 商売してるんだから悪いんじゃないのか? あれは売り物だぞ」