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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第1章 それぞれの思惑
(もう、今からお風呂なのに)
何事でも、誤解のような父の考えを知ると、由香ははっきりさせておきたかった。
「あのね、それは違うからね」
由香は自分の椅子に腰をおろして、続きを話し始めた。
「売り物は売り物なんだけど、ほら見て。あんなふうに花が全部咲いちゃうと、お客さんは買わなくなるのよ、分かる? 前にも言ったけど、店長さんが持って帰っていいって言ったんです」
どんな些細なことでも、野上は娘とのコミュニケーションを大切にしている。
「でもさ、あと少し置いておけば売れるんじゃないのか?」
「もう、前にも説明したじゃない。あのね、お店に低温のショーケースはあるんだけど、限界もあるんだよね。分かる? ところでかすみ草の花言葉、知ってる?」
(花言葉か。何だろう──)
野上は窓辺の花と由香をじっくりと見て、私はバージンです! と言う花言葉が浮かんだ。だが口にすることもできずに黙っていると、
「清らかな心だよ。まだ他にも言葉はあるんだけど、私と同じだね」
言って、由香は目を細めてにやりとした。
「清らかな心は俺も同じだ。それに店長さんなのか。そうだったな、前にも言っていたよな」
「納得? じゃあ私、先に入るからね」
由香はスカートを揺らして浴室に向かった。
このとき、色気のある娘の後ろ姿に、それが野上には疑問だった。しかしバージンも清らかな心も手付かずは同じだな、と納得するのであった。
(三)
花のある部屋は落ち着ける。しかし野上が幸恵と結婚していた頃には、こんなふうに妻が花を飾ることはなかった。絵の具で塗った花瓶に生けられていたのは、握りしめるようにして由香が採ってきた草花だった。
十三年ほど前である。
将来を考えた野上は、それまでの運送会社を辞めて、トレーラーの長距離ドライバーの職に就いた。アパートには月に数日ほどしか戻れない。それでも庭付きの家を描けば、野上は苦労を苦労とも感じなかった。
小学生の由香が長期の休みに入れば、娘と二人でドライブ気分、野上は楽しかった。
賞与は別にして、懸命に働けば六十万前後は月々振り込まれた。家庭は幸恵に任せ、運行していれば会社から自分に食費もでる。夢を描いて働いてさえいれば、野上はそれで良かった。
一方、彼の義理の両親は、以前とは比べものにならない金が振り込まれ始めたことを幸恵から知った。
何事でも、誤解のような父の考えを知ると、由香ははっきりさせておきたかった。
「あのね、それは違うからね」
由香は自分の椅子に腰をおろして、続きを話し始めた。
「売り物は売り物なんだけど、ほら見て。あんなふうに花が全部咲いちゃうと、お客さんは買わなくなるのよ、分かる? 前にも言ったけど、店長さんが持って帰っていいって言ったんです」
どんな些細なことでも、野上は娘とのコミュニケーションを大切にしている。
「でもさ、あと少し置いておけば売れるんじゃないのか?」
「もう、前にも説明したじゃない。あのね、お店に低温のショーケースはあるんだけど、限界もあるんだよね。分かる? ところでかすみ草の花言葉、知ってる?」
(花言葉か。何だろう──)
野上は窓辺の花と由香をじっくりと見て、私はバージンです! と言う花言葉が浮かんだ。だが口にすることもできずに黙っていると、
「清らかな心だよ。まだ他にも言葉はあるんだけど、私と同じだね」
言って、由香は目を細めてにやりとした。
「清らかな心は俺も同じだ。それに店長さんなのか。そうだったな、前にも言っていたよな」
「納得? じゃあ私、先に入るからね」
由香はスカートを揺らして浴室に向かった。
このとき、色気のある娘の後ろ姿に、それが野上には疑問だった。しかしバージンも清らかな心も手付かずは同じだな、と納得するのであった。
(三)
花のある部屋は落ち着ける。しかし野上が幸恵と結婚していた頃には、こんなふうに妻が花を飾ることはなかった。絵の具で塗った花瓶に生けられていたのは、握りしめるようにして由香が採ってきた草花だった。
十三年ほど前である。
将来を考えた野上は、それまでの運送会社を辞めて、トレーラーの長距離ドライバーの職に就いた。アパートには月に数日ほどしか戻れない。それでも庭付きの家を描けば、野上は苦労を苦労とも感じなかった。
小学生の由香が長期の休みに入れば、娘と二人でドライブ気分、野上は楽しかった。
賞与は別にして、懸命に働けば六十万前後は月々振り込まれた。家庭は幸恵に任せ、運行していれば会社から自分に食費もでる。夢を描いて働いてさえいれば、野上はそれで良かった。
一方、彼の義理の両親は、以前とは比べものにならない金が振り込まれ始めたことを幸恵から知った。