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第4章 :jealousy-嫉妬-

　その言葉を放った後、俺はあいつの顔を思い切り殴っていた。後で連れて行かれた場所に到着してから殴ったことに少しだけ後悔はしたが、その時は何も考えずに咄嗟に腕を振り上げていた。あいつはただ今この首都で起こっている劣悪な事件の為に彼女に付き添いを頼んでいただけであり、彼女は俺が来てから一緒に行くと伝えていたらしいから二人は悪くはない。悪くはないのだが、俺の中にはあいつが彼女をどこかへ連れて行くのではないかと。
　俺以外の男が――
　考えただけでも胸糞悪い。そしてこれが嫉妬の感情なのだと初めて知り、この感情が彼女と出会ってから数日の間で時折感じていたものと同じであることにも気づいた。
「どうぞ、良かったら食べてみて下さい」
　色々と考え込んでいる間に、俺はいつの間にか彼女のマンションの中にいて、いつもと同じ場所に腰を下ろしていて、そして目の前には不揃いの野菜とその間にひょっこりと顔を覗かせるウインナーが浸かっているポトフと呼ばれるスープがあった。
「パンは購入したものですけど、おかしいと思いません？　外国との交流を絶ち切った今でもその外国から伝わった料理がこの島国にはあるんですものね」
　普通なら和食を作ればいいのかもしれないんですけど、和食って意外と難しいんです――　彼女はそう言いながらポトフの入った器を昨日と同じようにツツッと少し前に押し出してきた。
「あ、味見をしたらなかなかで……」
　言葉もほぼ昨日と同じで、前に座っている姿も同じく緊張をしているようだ。俺はスプーンを手に取り、スープを掬って口の中へと誘った。
「美味い」
　俺が放つ言葉も昨日と同じ。俺がスープを一口飲もうとする間の彼女の不安そうな表情も、まるで昨日の光景をリプレイしているような感覚。
「良かった……」
　ホッとして笑う表情も。しかし昨日との笑みとはまた少し異なる。いつも同じような笑みを浮かべるロボットではない。彼女は『ヒト』だから、同じような感情を表したとしても、その表情や仕草は少しずつ違っているのだ。
　この時俺は考えた。俺も彼女と同じく、毎回違う表情をこの顔に、そして毎回違う仕草をこの身体全体で表しているのだろうか？
　『ヒト』であるようでそうでない俺。完璧になった仲間が羨ましい。なぜなら彼らの表情はとても豊かであり、知識はもちろん豊富で、それ以外でも様々なことを身につけているから。