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第4章 :jealousy-嫉妬-

　そして『ヒト』が羨ましい。幼い頃から感情の溢れる中で育ってきて、それを思いのままに操れる『ヒト』が、彼女が。
　俺のスプーンを持つ手が自然と動きを止める。
「えっと、お口に合いませんでした？」
　彼女の気遣うような雰囲気を出した声音が今の俺にとっては苛立ちの根源となる。
「す、すみません……　お好きじゃなかったみたいですね」
　違う――
「でも、今日はこれしか作っていないので……　あ、何かあったかしら？」
　違う！
　彼女が目の前から立ち上がって立ち去ろうとするのを、ソファから中腰になった俺の手が阻む。ローテーブル越しだった為に、俺の目の前に俺の為に差し出されたポトフの入った器が見苦しい動きを起こして中身を零す。俺にいきなり腕を掴まれた彼女が驚きの表情を浮かべながらこちらを振り向いたその時、俺はソファから中腰になったままの姿勢からローテーブルを飛び越えていた。幅のない一人用のそれは飛び越えるには何てことはない。俺は彼女の腕を掴んだまま、彼女の目の前に立った。
「どうしたらあんたと同じようにできる？」
「え？」
　俺の呟きに彼女は驚きの表情をスッと奥に隠して、次には不思議そうなそれに変化させる。このようにその場その場で自由自在に変化させることができるのが羨ましい。
「どうしたらもっと相手の気持ちを知ることができる？」
「あの……」
　何かを言いかけようとする彼女。俺の言葉にもすぐに答えられるようになっている上に、口に出してはならないだろうと思えばすぐに口を噤んで余計なことは言わないその唇を見つめる。
「どうしたら……」
　彼女は何も言わない。きっと呆れてしまったんだろう。俺の今のこの情けない姿を見て。女はいつも強くて頼りになる大人な男を好きになると、雑誌を読んでいたあいつが言っていたような気がする。あいつはそんな男になる為に警察機関で働くことに決めたのだから。何とも単純な理由だが、男は女にどう思われたいかと聞かれたら俺もきっと大人で頼られる強い男になりたいと答えるだろう。
　ああ、前に彼女に言われたように焦っているんだ。頭の中には数多の知識が詰め込まれているがそれはただ単に知識としてしか存在していない。欲しているのは知識じゃない。社会性と呼ばれるものだ。集団を作って生活しようとする人間の根本的性質。他人との関係など社会生活を重視する性格。社会生活を営む素質・能力。