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Eternal
第5章 :Reverie-夢想-
 ああ、そうか…… もう死が目の前にあって、それを受け入れるしかないと身体が悟っているのか。
 ねぇ……
 私……
 あなたを助けることができなくて……
 言葉を口から出せないことがもどかしい。
 とても悲しいわ……
 彼女は自分の血滴る床の上で徐々に意識を失っていった――。


 あいつに連絡を入れた後に彼女と共に彼女の友人のマンションへと向かい、ドアの前に立つ。その向こう側はとても静かだ。普段なら音がしなくとも何とも思わないこの時間がとても不気味に感じる。それはきっと、このドアの向こう側で何か予想もしないような恐ろしい場面が待っているのではないかと、俺は足元に落ちていた布切れを拾った瞬間に思った。
 薬品の匂い。クロロホルム―― かなり毒性の強い薬品だ。過去にこの島国で人気だったドラマやアニメなどで眠らせるという場面で度々使用されていたらしいが、普通に使用するなどとんでもない代物だ。
 これで眠らせるなんてことはできない。刺激は強力だが一瞬で眠らせようとするならばかなりの量を使用しなくてはならない。しかもこれはかなりの危険薬物で肝臓への毒性もあるのだ。過去には麻酔薬として使用はされていたが、冷めにくい麻酔であり、それが危惧されて今はその使用はほぼない。
 彼女がインターフォンを押しながらドアの向こう側へ声をかけるが何の反応もない。しかし微かに聞こえた。窓を開ける音と奇怪な笑い声が。
「鍵が、開いてる……」
 ドアに触れると俺たちを招き入れるかのように勝手に開く。その先に見えるものはグレー掛かった薄闇。しかしこの匂いは、それにやけに湿度が高い。その中へ彼女が足を踏み入れたのを見た俺の手は、咄嗟に彼女の肩を掴んでいた。
「待て、俺が先に行く」
 彼女を自分の背中に隠すようにして前進する。晴天で気持ちのいい朝のはずなのに、カーテンが全て閉められているからか部屋の中は薄暗い。しかし空気は動いているのは先ほど聞こえた窓を開ける音。それを開けっ放しにしたまま犯人は逃げたのだろう。
 薄暗くても夜とは違い部屋の状況はしっかりと把握できる。俺はある一点を見つめたまま、背後の彼女に静かに声をかけた。
「外に出よう」
「えっ?」
 俺の言葉を聞いた彼女が俺よりも前に出ようとするその肩を抱き寄せる形でクルリともときた方向に戻る。
 あれはさすがに見せられない。いや、見せたくない。

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