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Eternal
第2章 :Discomfort-違和感-
 この島国は現在の総理大臣が就任してからなぜかしら、首都の区名をアルファベットに置き換えることになった。そしてこの『H地区』は私のような地方から首都に移り住んだ学生が暮らす地域であった。
「ねえ、あなたのご家族は何か国政に関わっているの?」
「え、いや、何も関わっていないけれど、なぜ?」
 現総理大臣である女性が暮らす地区は『A地区』だと聞く。そして私の隣りを歩くこの男もまたその女性と同じ地区に暮らしていた。総理大臣が暮らしているのだから『A地区』は国政に関わるような者たちが暮らす地域なのだと、私はどうやら勘違いしていたようだ。
「僕には家族はいないからね」
 いきなりそう答えるその男の顔の中には以前から全く変化のない笑顔だ。初めて会ってお互いに自己紹介をした時、この男はこの首都で生まれて育ったと私に伝えてきたのを覚えている。
「ご家族はいらっしゃらないのね」 
 最後まで言葉が続かない。このような時にどのような問いかけをすればいいのかよく分からなかったせいもある。深く聞いてはいけないと思った私は、これでこの内容の会話を終わらせようとしたのだが、彼は何も気にもならないようで、先ほどと同じ笑みを浮かべたまま唇を揺らした。この時の私は彼の唇の動きを観察するように見つめた。
「いや、生まれる前からいなかったしっていうか、家族って何?」
「生まれる前から……? 家族って…… あなたは家族を知らないの?」
「うん、知らないな」
 彼の唇の動きを見ていた私の頭の中は、その唇から理解できない言葉が吐き出された為に混乱を起こした。
 生まれる前から家族がいないって、それよりも家族を知らないなんて――
 そういう者がいないとこの男がこの世に生まれることができないのに――
 できるはずがないのに、この人は一体、何を言っているのだろうか?
 私の視線は隣を歩く男の横顔のある一点から外すことはなく、なぜかしら、背筋の中心に血が通っていないような感覚に陥る上に、更にその個所から小さな軋み音を鳴らした。
 私も家族はいないも同然だと、幼き頃の記憶を手繰り寄せる。
 会わなくなってもう数十年になるが、時折私の記憶の底からふと現れる彼らの姿。私の為に頻繁に会いに来てくれて、別れる時には悲しみで顔を歪めていた。
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