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Eternal
第2章 :Discomfort-違和感-
そして最後の別れの日には母親と呼ばれる女性に強く抱き締められた。その感触を未だに覚えているのだ。そして会わなくなった今でもそれらの記憶は時に蘇り、私の胸に棘が刺さったような痛みを起こさせる。付き合いの浅かったこの私でも、両親であるという彼らの今を案じている時がある。それなのに親がいないという男の表情には寂しさや辛さといったような色が全くなかった。
 笑っている――
 私は男の横顔のある一点を見た瞬間に大きな身震いを起こした。この時に初めて、男の笑顔が優しいと思うと同時に恐怖を覚えた。
「この首都は『H地区』『A地区』『E地区』に分かれているけれど、まず私たちが暮らす『H地区』は私たちのような地方から来た学生が暮らす地域でしょう?」
「そうだよ」
 私は男の顔から視線を外して前を向きながら、恐怖の感情を振り払うようにして違う話題に変えて質問をすると、男は即座に答えてくれた。
「じゃあ、『A地区』と『E地区』はどのような人が暮らしているのかしら?」
 この質問をしてからもう一度男の顔をみてみると、その顔の中にはいつも通りの笑み。しかし何かを考えているような間があり、この時に私の内耳に響いてきたのは聞き間違いなのだろうか? 何かしらの異音―― その後すぐ、
「さあ、僕には分からないよ」
 男の口元からそう放たれた。
「分からない……?」
 知っているような含みを持たせた雰囲気の答え方をした男の表情は相も変わらず笑顔のまま。まるで計算されたような笑みだった。
 地方から首都の大学に入学をした私は当然のことで『H地区』の物件を選ばなければならなかった。この時はこの地区が地方から首都の大学に入学する学生の為の寮がある場所なのだと思っていた。しかしどう見てもそうではないことを入学をしてすぐに知った。
 朝に外を歩いてみると、慌てて出勤をする女性の姿を多く見かけたのだ。この『H地区』に男の姿はほとんどみられることがなかった。クラスメイトだった男子たちがどこに住んでいるのかも今は分からない。大学内にはいるはずだと思うのだが、入学をしてすぐ姿を見なくなっていた。まあ、大規模大学だし、私とクラスメイトの男子とは受けた学部も異なった為、姿を見ないのもそう珍しいものではないのだろうと考えていた。たまにこの地区に男の姿があると思えば、それはこの地区の女学生を送っている『A地区』の男であった。
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