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Eternal
第3章 :confusion-混乱-

口早にそう言って、その男の手を掴んだままマンションの方へと歩もうとした時、その男の掴んでいた私の手は軽く振り払われた。掴んでいた手が軽くなったと気付いたと同時に背後を振り向くと、男は無表情のままで私を見つめた後に、出血しているであろう指をマフラーに隠れている口元へと誘って咥えた。
「舐めときゃすぐ治る」
「舐めときゃ治るって……」
私はその男の素っ気ない声音で吐き出された言葉を聞いた途端に小さな吹き出しを起こしてしまった。それが気に喰わなかったのか、男の美しく整った両眉の狭間に小さくて短い皺が作られた。機嫌を悪くさせたはずなのに、なぜか私の機嫌は頗るいい。先ほどまであんなに怖い思いをして精神的にはショックを受けているはずなのに、この男のちょっとした表情の変化にどうやら助けられたようだ。
「舐めて治るって言葉は過去の言葉で、今はほとんど使われていないんですよ」
私はクスクスと笑い声を放ちながら自分の鞄の中に片手を突っ込んで弄った。鞄の中に差し込んでいた手の指先があるものを見つけて、それを掴むと鞄からその手を抜き出した。そしてその男の怪我をしているであろう手を静かに掴んで自分の目の前に誘った。
「これだけは貼らせて下さいね」
そう伝えて怪我をしている個所にバンドエイドを丁寧に巻きつけていく。私のその動きを見ていた男がマフラーの内側にある口元から機嫌を損ねた声音を響かせた。
「俺の指にそれを貼るか?」
「えっ?」
バンドエイドを貼ることがそんなにも嫌なことなのだろうかと私が男の顔に自分の顔を向けると、男は怪我をしていない方の人差し指でバンドエイドを指した。
「この柄だ」
「あ……」
咄嗟に鞄の中を弄って取り出したバンドエイドは女の子受けするピンク色で、小さなハートの柄が描かれたものであった。鞄の中には普通のそれもあったのだ。
「ご、ごめんなさい! 貼り換えますね」
慌ててそう伝えると、男は小さく溜め息を吐き出して手を自分が纏っているコートのポケットの中に突っ込んでいた。
「こうしたら見えないだろうから、二度手間はしなくていい」
男は私の顔から自分のそれを逸らすと、遠くに輝く車のライトの光に片手を振り上げた。今の出来事をすっかりと忘れてしまったのか? 片手を振る男の指先に私が巻き付けたピンク色で小さなハート柄がその光線を受けて闇の中で浮かび上がる。
「舐めときゃすぐ治る」
「舐めときゃ治るって……」
私はその男の素っ気ない声音で吐き出された言葉を聞いた途端に小さな吹き出しを起こしてしまった。それが気に喰わなかったのか、男の美しく整った両眉の狭間に小さくて短い皺が作られた。機嫌を悪くさせたはずなのに、なぜか私の機嫌は頗るいい。先ほどまであんなに怖い思いをして精神的にはショックを受けているはずなのに、この男のちょっとした表情の変化にどうやら助けられたようだ。
「舐めて治るって言葉は過去の言葉で、今はほとんど使われていないんですよ」
私はクスクスと笑い声を放ちながら自分の鞄の中に片手を突っ込んで弄った。鞄の中に差し込んでいた手の指先があるものを見つけて、それを掴むと鞄からその手を抜き出した。そしてその男の怪我をしているであろう手を静かに掴んで自分の目の前に誘った。
「これだけは貼らせて下さいね」
そう伝えて怪我をしている個所にバンドエイドを丁寧に巻きつけていく。私のその動きを見ていた男がマフラーの内側にある口元から機嫌を損ねた声音を響かせた。
「俺の指にそれを貼るか?」
「えっ?」
バンドエイドを貼ることがそんなにも嫌なことなのだろうかと私が男の顔に自分の顔を向けると、男は怪我をしていない方の人差し指でバンドエイドを指した。
「この柄だ」
「あ……」
咄嗟に鞄の中を弄って取り出したバンドエイドは女の子受けするピンク色で、小さなハートの柄が描かれたものであった。鞄の中には普通のそれもあったのだ。
「ご、ごめんなさい! 貼り換えますね」
慌ててそう伝えると、男は小さく溜め息を吐き出して手を自分が纏っているコートのポケットの中に突っ込んでいた。
「こうしたら見えないだろうから、二度手間はしなくていい」
男は私の顔から自分のそれを逸らすと、遠くに輝く車のライトの光に片手を振り上げた。今の出来事をすっかりと忘れてしまったのか? 片手を振る男の指先に私が巻き付けたピンク色で小さなハート柄がその光線を受けて闇の中で浮かび上がる。

