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第3章 ：confusion-混乱-

「『E地区』の”E”とは”evolution”で進化という意味だ。その頭文字を地区名としているが、俺はその中の”incomplete area”で暮らしている」
　”evolution”　進化に　”incomplete area”　不完全地域という言葉を聞いた私は、ここから彼の話に全くついていけないような気がした。というよりも、この先の彼の口元から放たれる説明を聞きたくないという拒絶反応が脳内で生じていた。それを生じさせたのは、もしかすると彼が私のすぐ隣で女性が好みそうな香りを放っているからだろうか。それとも、二人の距離があまりにも近すぎることによって高鳴る鼓動が壊れそうだから？ でも私の耳は先の話を聞きたいらしくて彼の方に寄せていくし、鼻先は彼の香りにもっと酔いしれたいようで、私の顔はすぐ近くにある顔へ自然と向いた。
「俺が暮らす『E地区』出身者は自然分娩や人工分娩で誕生していない」
　彼の話の内容は受験勉強の時に苦しめられた外国語のようだ。いや、もしかすると後者の方がまだましかなのかも。なぜならそれの教科書の最後には必ず答えがあって最終的にははっきりとした答えを知ることができたから。
　この島国は過去にある細胞の研究によって、臓物や抗体を新たに作り出したり、それを使用した治療薬の開発などが行われた。それらはかなり長い年月をかけてようやく病に冒された、生きたいと願う『ヒト』を助けるところまで進んだのだ。その細胞の研究をしていた研究者はきっと、『ヒト』を助けたいという純粋な思いだけでそれを完成させるまで必死だったろう。。
　治せないと世間が諦めていた病を治すことができるようになっただけでも素晴らしいことだ。しかし、その当時の島国は少子化に悩まされていた。子どもは増えてほしいが増えるだけで満足というわけではなかった。島国の権力者たちは若くて優秀な人材が必要だったのだ。そこでその研究者にある研究をしてほしいと依頼した。もちろん、純粋に『ヒト』を助けるための研究をしていたその研究者は、当時の権力者の依頼を断った。その後、その研究者は何者かに命を奪われ、細胞の研究はこの島国の首都の研究機関に委ねられた。
「おかしくないですか？」
　私はそこまでの話を聞いた後に疑問符を投げた。