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Eternal
第4章 :jealousy-嫉妬-
 彼女はこちらを向いていたが、俺たちが彼女の方に視線を向けていることに気づいた途端にフイッと顔を逸らした。しかし俺は見逃さなかった。
 彼女の顔の中には何かに傷ついたような歪みがあった。
「ああ…… 彼女を傷つけちまったな」
 男の呟きに俺は首を傾げる。
 彼女を傷つけた? いつ、どこで、何で?
 俺の仕草や表情で何を疑問に思ったのかを理解したのだろう。何せこの男は完璧になったのだから、過去の記憶の男が言っていた『ヒト』の機微をよく知っているのだ。
「お前な…… 何の興味もなしに触ったと言って傷つかない女なんていないぞ?」
「どういう意味だよ?」
「女が異性に触れられるってことは、少しの期待もしているんだ。まだ知り合ってまもなくてもな。女ってもんは触れてきた相手が自分に少しでも興味を持ってもらえている、気になってくれているって思うんだよっ!」
「いてっ!」
 男が俺の脛をガンッと蹴ってきて、思わずその場にしゃがみ込んだ。
「痛いだろう?」
 男がしゃがみ込んだ俺の上から言葉を降り落としてくる。
「彼女の心はお前のその痛みよりももっと傷ついて痛いんだぜ。『ヒト』の心は脆くて傷つきやすくて、最悪は修復が不可能になる場合もある」
「それって、精神がやられるってことだろう?」
 俺が咄嗟に言い返すと、再び蹴られる。今度は脛ではない。
 顔だった――
 首が軋みを起こしたような感覚。一瞬でも息の根を止められたかと思った。蹴られた衝撃で俺の口内からは鉄臭い粘液が舌の上を覆い、それは喉にも流れ落ちて息苦しくなって咳き込む。その時に俺の口から出たそれが彼女の部屋のカーペットの上を汚した。
「おいっ! 顔はないだろっ!」
 俺はこれ以上、彼女の部屋を汚してはならないと。あの時の夜と同じだ。彼女の全てを汚したくなくて、口の中から鮮血を吐き出さないように口元を片手で押さえた。しかし目の前の男は容赦がない。俺の襟元を激しく掴むと、間近まで顔を寄せてきた。一瞬、ニコチン切れかと思うほど。なぜ、俺たちの問題にこうして激しい怒りを向けてくるのか分からない。
「知識通りの言葉ばかり並べんじゃねぇっ! お前はあいつに言われただろっ!? もっとたくさん『ヒト』の機微に触れろってなぁ!」
「まだ出会ってから間もないんだよっ! それなのにそんなに早く機微に触れることができるかっ!」





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