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第4章 :jealousy-嫉妬-

　この時の私の脳裏にはあの夜の記憶が蘇る。この男性の力はあのロボットのそれと似通ったところがあった。いや、もしかするとそれ以上かもと思われるほどに強すぎる。私はこういう方面に関しては素人だけど、経験者は語るみたいな感じ方だとそう思えた。
「あいつには電話で伝えておいてやるから、まず俺を大学に連れて行け」
　男性は自分の言いたいことだけをその場で放って、まず私の許可など全く無視で同じ力のままで引っ張ってマンションから出ようとする。
「ちょ、ちょっと、お願いします！　まずは落ち着いて私の話を聞いて下さい！」
　ズルズルどころか、引っ張られるがままであった為に私の両足はスリッパのまま。それがコンクリートの床に引きずられるものだから、それもものすごい勢いで。私の両足の底からは埃のような煙のような白いふわふわとしたものが放たれていた。摩擦熱がこういうものかと今、理解できるくらいにそれは濃さを増して、私の足底は少しずつ熱を持ち始めている。
　服だって今日は雨だから出かけるつもりもなくて部屋着だ。そして髪の毛だって簡単に纏めたまま。私は渾身の力を振り絞り、無言で前に突き進む男性の掴む手を振り払おうとしながら声を上げた。
「早く『ヒト』になりたいんだったら女の子の気持ちも分かって下さいよ！」
　ピタリと男性の動きが止まる。足底の熱もこのままでは火傷するかもしれないと危惧していたけれど、その心配もなくなった。と、同時に私が顔を上げると、
「おいお前、何をしているんだ？」
　かなりトーンの低い声音が男性の背後と私の目前で放たれていた。


「ここでミスコンが行われるらしいですよ。あ、中から音楽が聞こえているからリハーサル中ですかね」
　激しい雨音の中で男性の顔は彼の拳を受けたが為に、哀れだと思われるほどに腫れている。口の中も切ったようで口端からは少し赤みの液体がこびりついていたけれど、男性はそれをそのままに、出かける用意をした私と不機嫌なままの彼を引き連れて大学へと向かっていた。
　何とも気まずい雰囲気だと、言葉を発した後に私は小さく溜め息を吐く。大学に来るまでの彼と男性の間には会話が一切なかったからだ。詰問をしようと言い訳をしようと、会話が成立するのならば、この三人の間の空気はまだましだったかもしれない。その行動が仲直りをするきっかけになる場合もあるからだ。