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その匂い買います
第1章 その匂い買います
 部屋の間取りは、長方形の白い内装の壁に天井は吹き抜けで、扉を開けて右側には、ちょうど正座をして腰のあたりの高さほどの長方形の台座の上に、パソコンが2台ほど、設置してある。この台座は扉の壁から向こうの壁まで続いている。
 床一面には、黒いクッションが敷かれている。その上に両足を伸ばして、恵美が座る。
「どうぞ」
 伸ばした両足は、肌色のストッキングを履いてた。指呼する位置に立っている中塚の鼻孔に、わずかに漂う足の匂い。この時中塚は確信めいたものを得ていた。
「この人の足は、かなり強烈な匂いがする」
 と、そして恵美の両方の足の裏を一瞥し、
「23センチですか、足のサイズ」
 恵美はたいそう驚いた表情を浮かべて、
「よく、サイズがわかりましたね」
 半ばあきれた感じで言い放った。
「なんだか緊張するわね。変な感じがするわ。足の裏を見られるのって」
 中塚は恵美の両足の足首を掴み、それを自らの顔面に押し当てる。中塚の顔面に温もりが宿った。そして、初めて嗅いだ匂いに、
「この匂い……」
 中塚はつぶやいた。その声が恵美に聞こえたのか、
「私ね、仕事帰りは足が匂うのよ。ストレスからかも知れないけど、いつもは消臭スプレーとか吹き掛けて誤魔化しているけど、今日は貴方と会う約束をしていたから、そのままで来たのよ」
「みつけた、この匂いだ」
 中塚は声を荒げた。
「そんなに匂うかしら? 大声を出すほど」
 酸っぱい感じに、足が蒸れた匂いがミックスされたような匂い。
「貴方みたいな感じの人が、こんな事をするなんて意外ね」
「毎回、言われます」
「やっぱり」
 それは、あざけりにも似た笑いであった。今時、七三分けにして、黒縁のメガネをかけているサラリーマンなど、生きる化石みたいなものだ。
「でもね、懐かしいわ。その髪型」
「懐かしい? 」
 中塚は1度、両足から顔を離して、恵美の方をみやる。
「他界した私の父親が、昔、貴方みたいな髪型をしていたのよ。なんだか、親近感が湧くわね」
 恵美は微笑んで見せた。
 中塚も、どことなく親近感を覚えていた。
「生足の匂い嗅がせて下さい」
 中塚が人の血が通っていないかのような冷酷な表情でそう言うと、
「貴方…… いや何でもないわ。気になさらないで」
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