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第8章 ８

　時に――セックスに限らず――洋平と一緒に過ごす時間は、『“好きな人”と一緒にいる』という単純な理由のみで以て、由里絵に相応の幸福をもたらす。

　けれども――その「幸福」の最中にあっても――とりわけ由里絵が価値を置く『お気に入りの時間』が、いくつか存在する。

　今、まさにその『お気に入りの時間』が、始まろうとしていた。

　　　　　　　　　　☆☆☆☆☆

　お互いの“恥態”を認め合って、少々賑やかに笑い合っている間も、二人は相手の顔から視線を外さない。

　そのうちに、相手の顔に向ける“眼差し”が――どちらからともなく、そして少しずつ――「真剣味」を帯びていく。

　その「真剣味」に“反比例”して、賑やかな二人の“笑い声”は、徐々に鳴りを潜めていく。

　やがて、静かな“微笑”へと変わった頃、「和やか」だったベッドルームの雰囲気は、すっかり「エロティック」なものへと変わっている。

　お互いの顔を見つめる視線も、いつの間にやら――夏のアスファルトの上で揺らめく――陽炎のような、ギラギラとした欲望を孕んでいる。

　この“移ろい”の時間が、由里絵はたまらなく好きだった。

　何故なら、この“移ろい”の果てに、いつも「キス」が待っているからだ。