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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第2章 愛のバルカローレ
…お互いがお互いに恋愛感情を抱いていることは確認した。
口づけも交わした。
…あとは…あとは…?

伊織はため息を吐いた。

伊織は色恋に疎い。
母親が愛人だったことから、男女の色恋沙汰を敬遠していたところがある。
初恋も経験したことはなく、そのまま幼年士官学校に入学したので、もちろん性体験もない。

色事に長けている同級生は、休日にいわゆる遊郭のようなところに行き、女を買っては武勇伝を吹聴している者もいる。
「有馬、お前も今度の休みに吉原に行かないか?
お前は男前だから絶対モテるぜ」
笑いながら誘ってくる級友もいたが、女に興味がない伊織には、何が良いのかさっぱり分からなかった。

…男同士は、どうやって愛し合うのだろう…。
目下の伊織の疑問はそれであった。

…和葉のことは好きだし、彼との口づけは天国にいるように甘美で恍惚とした。
身体の芯の熱を収めるのに苦労したほどだ。

…だけど、この先は…。
考えるだけで胸が苦しくなる。

…と、浴室の扉が開き、やや暢気な声が聞こえた。
「ああ、さっぱりした。
…成績上位者になって何が良いって、シャワー付きの部屋に入れたことだよね。
…これから何かと便利になりそう」
「…え?」
最後の言葉にどきりとする伊織を、和葉は可笑しそうに笑った。
「何を想像した?今…」
まだ透明な雫が滴る亜麻色の髪をタオルで無造作に拭きながら、和葉は伊織のベッドに腰掛けた。
「…何って…それは…」
言葉に詰まる伊織に、和葉は手を差し伸べた。
「来て、伊織…」
「和葉…」
不器用な子どものように、椅子の上で身動ぎもしない伊織に、和葉はもう一度優しく繰り返す。
「…ここに来て、伊織…」

伊織は、唇を引き結ぶと差し出された白く美しい手を握り締めた。
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