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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第2章 愛のバルカローレ
八雲は和葉が物心つく頃にはすでに屋敷の副執事として存在していた。
…けれど、彼に構われた記憶は殆どない。
なぜなら彼はその頃からずっと、兄 瑞葉に常に寄り添い、掛り切りで世話を焼いていたからだ。

瑞葉は生まれつき身体が弱く、医師も恐らくは成人するまで、無事に育つことはないだろうとの見立てをしていた。
腺病質で病弱で、三才になっても歩くことが出来ない長男を、篠宮家において絶対的権力を握る祖母、薫子は次第に冷ややかな目でみるようになり、やがて完璧に健康な和葉が生まれると、徹底的に瑞葉を無視するようになった。

…薫子は、病弱な体質より何より瑞葉の容姿を嫌った。
ドイツ人だった薫子の母親の血を、瑞葉は誰よりも濃く受け継いでいたのだ。
薫子の容姿は幸い、日本人の父親に酷似していた。
受け継いだのは彫りの深い目鼻立ちくらいであった。
髪も目も黒く一見、混血とは分からなかった。
息子の篠宮伯爵も同様だった。

しかし、瑞葉は違った。
…太陽の光に透かした蜂蜜色の髪、極上のエメラルドの宝石のような鮮やかな瞳、透き通るように白い肌…。
純血の西洋人と言っても通るような容姿に生まれ出でたのだった。

混血の血筋に病的なくらいに劣等感を抱いていた薫子は、瑞葉がこの世に誕生した時から、彼を異端児と見なし毛嫌いしていたのだ。



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