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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第2章 愛のバルカローレ
和葉は、髪と瞳の色こそやや明るめではあったが、それは人々に羨望の眼差しで見つめられる美しいものであった。
明らかに西洋人の子どものような容姿の上に、病弱な瑞葉に、来客は腫れ物に扱うように振舞った。
しかし、天使のように愛くるしく健やかな赤ん坊の和葉には、彼らは口を揃えて褒めそやした。
それこそ薫子が求めるものだった。

「今後は瑞葉を表に出すことを禁じます。
逆らった者は、例え肉親でも容赦はしません」
薫子は非情に申し渡した。
もちろん階下の使用人達にも、お触れは伝えられた。

血を分けた我が子に非情な扱いをする薫子に、和葉の母の千賀子は逆らうことは出来なかった。
千賀子は大層美しいが、篠宮伯爵家より格が下がる爵位も持たない金融業を営む家の娘であった。
その為、薫子には嫁いで来た当初から冷ややかな目で見下され、発言権など皆無に等しかった。

千賀子は涙ながらに八雲に懇願した。
「八雲。どうか、瑞葉さんを頼みます。私の代わりにあの子を守ってやって下さい。私にはあの子を守ってやることが出来ません。
哀れなあの子を…どうか…どうか頼みます…」
瑠璃色の神秘的な瞳は瞬きもせずに、千賀子を見つめた。
「奥様、承知いたしました。瑞葉様のことは私が生涯命を懸けてお守りいたします」

八雲は約束を違えなかった。
まだ副執事だった八雲はその日以来、瑞葉の側を決して離れずに、献身的に傅くようになった。
それは執念とも言うべきものであった。

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